第111話 俺の判断ミスだ

「で、何を言い合っているんだ?」


 一応、二人の言い分を聞いてみることにした。


「この青鳥の料理の手順がめちゃくちゃなんだ!そんなことでは作れないと何度も言っているのに聞く耳を持たん。」


「この白猫が出来ない出来ないとうるさいんですぅ。」


 うん。ジェームズからも聞いているが、キアナのスキルがスゴすぎるってことなんだろう。そして、キアナはその自覚がないと。


「じゃ、キアナ作ってみてくれ。」


 そう言えば俺はキアナが作っているところを見たこと無かった。何かと他の者達の事を見て回っていたからな。

 特にサッテリーナの持つ時間経過のスキルが便利すぎて、そっちに手をとられていたからな。



 ああ。キアナの作っている物をみて、確かに無理だと確信した。

 スープを作らせたのだが、水をいれる。ぶつ切りの野菜を皮ごと入れる。肉もぶつ切りでそのまま下味を付けずに入れる。火を入れる。味付けに塩を入れ、鍋の蓋をする。湯気が出てきて火を止めて蓋を開ければトマトスープの出来上がり!


 何処にトマト・・・じゃなかったトーマが入っていたんだ!入れているところを見ていないぞ。

 味見をすると、マジでトマトのコンソメスープが出来上がっていた。コンソメって入れていたか?いや、まだコンソメというものを俺は作り上げていない。

 何だ!蓋をした鍋の中で何がおこったのだ!


「キアナ。悪いが、これはレシピ化出来ない。野菜は皮ごと入れない。肉は下味を付けて焼いた物を入れた方が香ばしさが出る。若しくは肉を下茹でするときに香草で香り付けすると・・・マギクスは何を書いているんだ?」


「エンの言ったこと。」


 いや、大して書くようなことは言っていないぞ。


「まぁ。言いたいことは、キアナ。元の業務に戻っていいぞ。キアナに頼んだ俺の判断ミスだ。」


 俺がそう言うとキアナが詰め寄ってきて、俺の両腕をガシリっと掴んできた。

 おい、そこはさっきマイアに痛いほど掴まれたところじゃないか!


「キアナさんの料理は美味しいって言ってくれたよね。」


 ああ、美味しいのは認めるが、今必要なのはその美味しいものをレシピ化できる人材だ。しかし、入れてもいない物の味を再現しろと言うのは、酷というものだ。


「キアナさんの料理を食べたいよね。」


 だから、食べたいか食べたくないかの問題ではなく。仕事の話をしているんだが


「キアナ、そもそもだ。ツァレさんから野菜の切り方を習って、なんで皮のままぶつ切りの野菜を入れているんだ。」


「え?手を切らないように包丁を上から下に下ろせばいいって言われた。」


 どういうことだ!誰がそんな事を教えたんだ!遠巻きで見ているツァレに視線を向けた。すると、ツァレは困ったように首を横に振ってきた。何があったのだろう。


「ツァレさん、どういうことだ?」


 キアナの手を剥ぎ取り、ツァレに詰め寄る。


「それが、あまりにも危なっかしくて、皮を剥くよりも指を切る回数の方が多くて、もう一層のこと振り下ろすだけでいいと・・・。」


 どんだけ不器用なんだ!ピーラー使えよ。あ、そんなもの存在していなかった。直ぐにネットでピーラーを数個購入する。


 それを不器用なガジェフに渡して、使い方を説明をした。そして、赤い色をしたじゃがいもによく似たポテポと言う野菜を渡して皮を剥くように言ってみた。


 以前、大柄なガジェフが不器用ながらチマチマとクズポテポを量産していっている様子を見せつけられ、ポテポが可哀想になったことがあったのだ。


 流石、ピーラーだ。皮が向けた一つのポテポがきれいな形で存在していた。

 ピーラーは不器用なガジェフでも使えることが証明された。これで、料理の負担も・・・ツァレさん、ガジェフからピーラーを奪い取って何を!


 めっちゃ野菜の皮を剥き始めた。今日の夕飯の下ごしらえは終わったと言ってなかったか?

 それ以上野菜を剥いてどする・・・黙っていなさいって・・はい。


 いろんな野菜の皮を剥いて納得したのか、とても満足したツァレさんがにこやかに俺のところに近づいてきた。笑っているけど何故か背中に寒気を感じるのは、気の所為だろうか。


「エンくん。どうしてもっと早く出してくれなかったの?」


 いや、それはピーラーと言う存在が頭の中に無かったからだ。


「これがあれば私はあんなに苦労しなくても良かったはずよね。」


 ええっと何のことかわからないのだが?


「いつも食堂の料理を作っているのに、厚い皮と歪な形の野菜を量産していく熊とスキルがあるのに野菜と指を同時に切っていく鳥に教えても教えても何も変わらない。私は努力の虚しさを感じなくてもよかったはずよね。」


 それほど酷かったのか。


「エンくん!あなたの居ない1ヶ月の私の苦労は何も実らなかったのよ!これがあれば、これさえあれば、私は!」


 ピーラーをギリギリと音がするほど握りしめたツァレが、床をダンダンと踏み鳴らして抗議をしてきた。

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