第112話 何の技だ?
「悪かった。ピーラーの存在を忘れていたんだ。」
ツァレに謝ったが、怒りがおさまらないらしい。大変だろうとは思っていたが、教えるように頼んだツァレに負担がかかってしまったのだろう。
本当なら食堂を仕切っているガジェフに聞きたいところだが、一番まともそうなマギクスにここ一ヶ月の事を聞いてみた。
まずは殆ど料理という物をしたことがなかったミリアとエーレは指示をだせば基本的な事はできるようになったようだ。
サッテリーナは料理が出来なくても俺が頼んだ多種多様な事をしてもらっていたので、問題はなかった。
やはり問題があったのはガジェフとキアナだった。
しかし、ガジェフは今まで食堂を任されていた事もあり、細かい作業以外は問題はなかった。ただ、ツァレに頼んでいた食材を切るという事のみが駄目だった。
そして、スキルという物を持っているということで、今回、食堂の仕事に回されたキアナだが、食材を切るはずがなぜか食材ではなく指を切ったり、包丁が天井に刺さっていたり・・・あ?ツァレの横を包丁がかすめて行ったと・・・それは、しっかり持って上から下におろせと言うな。
で、料理を作れば摩訶不思議。入れていない食材の物が作れてしまうと。
もしかして、行商に出る前に作っていたスープ類もそうやって出来ていたのか!しかし、カレーは無理って言っていたぞ。
いや待て、一度カレーを出したときに、あの食い意地の張ったキアナが辛いのは無理って残していたよな。カレーが作れなかったのは香辛料が無かったからではなく、ただ単にキアナが作りたく無かっただけなのか。
料理スキル、使えるようで使えない。
やはり、キアナを外そう。そして、ガジェフはもう総料理長の位置で良いんじゃないのか?ヒラヒラエプロンさえ見なかったことにすれば、貫禄があって、いいと思う。如何せん無口なのが、問題あるかもしれない。
「ツァレさん。ガジェフとキアナに教えるのはもうしなくてもいい。「え!」通常業務だけで構わない。「まだ、出来ていないのに」ガジェフは業務の総括をやってくれ、まぁ、皆をまとめる役だ。「うさうさリンリンの技を習得してないのに!」・・・」
先程からキアナが俺の話を邪魔してきたのを無視していたが、最後のうさうさリンリンの技ってなんだ?そんな技聞いたことないぞ。
「何の技だ?」
「うさぎになる技よ!エン知らないの?」
キアナが堂々と言い張ったが、うさぎになる技?そんな物があるのか?うさぎ獣人のエーレを伺い見るが、首を横に振っている。するとツァレがため息を吐きながら教えてくれた。
「はぁ。リンリンをウサギの形になるように包丁で切るのです。小さな子供には好まれるので、姪っ子がいるエーレに教えていたのですが・・・」
リンリン・・・リンゴか。それをウサギの形にってことは、皮を耳に見立てて切るやつか。
エーレに教えていたところキアナが教えてくれと言ってきたのだろう。まともに包丁が使えないのに教えろと。
邪魔だったんだな。
「キアナ。今のお前には無理な技だ。習得不可能。諦めろ。それから、明日から食品部門に戻っていいから、ジェームズにも言っておく。」
「どうして、そんな事を言うの!エン。キアナさんが必要なんだよね。キアナさんのスキルが必要なんだよね!」
キアナが押し迫ってきたが、元々一時的にだけというジェームズとの約束だ。1ヶ月食品部門から借りたという感じでいいのではないのだろうか。
「キアナ。キアナのおかげで料理スキルというものがわかった。それは食品部門で役立てるものだったのだ。流石ジェームズだ。よくわかっていたということだ。」
ジェームズの名を出して、キアナの肩を叩く。するとフィーディス商会の会長であるジェームズが正しかったことを言えば、キアナは納得してくれたのか
「そうね。大旦那様の指示に間違いは無いのよね。でも・・・」
なんだ、何かあるのか。
「うさうさリンリンの技を」
「無理だ。」
「まずは包丁を投げないようにして欲しいわ。」
「怪しい技名を作らないでほしいです。」
マギクスから否定され、ツァレは包丁を投げられた事を根に持っているのか、投げないようにすることを言われ、エーレからは怪しい技名と言われているが、キアナ!お前が勝手に作った名前か!
めっちゃ恥ずかしい。普通に使われているのかと思って『
摩訶不思議なトマトスープは横に置いといて、今日の夕食を皆が作っていっている様子を調理場の端で見ていたが、なんとかなるんじゃないのだろうかという雰囲気にはなっている。しかし、一人休みで仕事を回さなければならない。この一ヶ月誰も休み無しで働いていたらしいからな。
もう少し簡略化できるところはないのだろうか。そう思って見ていると突然後ろから頭をガシリと掴まれた。
「エン。お前ここで何をしているんだ?」
この声はソルか。その前になんでソルがここにいるんだ。
「ジェームズから食堂の改善の続きを言われた。」
そう答えると、ソルに小脇に抱えられて調理場から連れ出されてしまった。おい、俺はまだ仕事の確認している途中だったんだぞ。
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