第120話 未来視は過去のこと
『君も大変なんだね』
アホー鳥に同情されてしまった。くっ・・・俺の不運が忌々しい。
なんか違う雰囲気の場所に出てきた。今までは土壁のトンネルを歩いてきたという感じだった。目の前に広がる光景は洞窟のような岩の壁が広がり、青白く光る魚のような物が空間を泳いでいる。水が波打つような光が洞窟の天井の方に漂っている。不思議な光景だ。
「本当に裏ダンジョンに着いたのか」
ルギアがポソリと呟いた。ここが裏ダンジョンなのか。魔物らしきモノは近くには見られない。
「なぁ。あの魚はなんだ?」
「光魚だ。あれがいるところは魔物がいないんだ。」
ソルが教えてくれた。アレがいると魔物がいないのか。あの発光する光に何かあるのだろうか。
『そうだよ。休息所は所々に設置しているよ。魚人たちに来てもらわないといけなかったからね』
ああ、あれか良質な狩り場があると言っていたな。魔物に襲われない漁場。あの光魚が目印になっていたのか。
『ここだよ。ここ一帯は好きに落書きしていいって言ったんだけど、本当にギッシリと落書きされたよ。』
光る魚が空間を泳ぐ一角に一面に文字が刻まれた壁が存在していた。それもこの世界の文字ではなく、日本語だ。
日本語がわからないと確かに落書きにしか見えない。それも無尽蔵に書き殴ったかのように見えるから余計に落書きにみえる。上から下までその一角の壁一面にだ。異様にしか映らない。
それも複数の人物に対して書き示していた。『紅玉の君へ』だったり『夢惑いし君へ』だったり、その人物宛に書かれていた。
あの時アリスが言っていたように俺宛の物は無いようだ。ダンジョンに残された物はあの場所のみだったようだ。
ただ、俺らしき文言が書かれた物があるのを見つけてしまった。宛名は『黒の聖女へ』に対してだった。
黒の聖女が誰のことかわからないが、俺が未来で会う人物なのだろう。
─黒の聖女へ──から始まり、途中に──故郷の花が咲き満ちた朔月の頃、黒龍から頼みごとをされるわ──とある。
黒龍は俺のことなのだろうが、俺は黒の聖女と言う者に何を頼むのだろう。ふと、気になりルギアを見れば少し離れたところで壁の一点を見つめていた。
側に寄ってみれば、どうやら天津宛の未来視・・・いや、今の俺からみれば過去の事だ。
──暁の者との戦いはどうだった?──
という文言から始まっていた。暁とは何を指しているかわからないが、戦いがあった後にここに来たのだろう。
──水龍がここに来たって言うことは、覚悟が決まったということでいいんだよね──
どういう事だ?ここには偶然来たようにルギアもソルも言っていたぞ。でも、この書き方は天津はここにアリスの未来視があると知って、このダンジョンに偶然を装ってたどり着いたという事なのか?
──大切な者を失って覚悟が決まったって感じかな?いいよ。水龍が望む未来へ導いてあげる。貴女の死をもって終止符を打つ道へ。
ここから東にミレーテという小さな町があるの。そこは転移門があるというか私がそこに設置したんだけどね。
その地下に『王の嘆き』というダンジョンがあるわ。そこのダンジョンマスターの願いを叶えなさい。それが貴女の、貴女の大切な者達を護る砦となるの。そこを足がかりに
そうね300年はかからないと思うけど、新たな龍が生まれるから、その後で貴女の最後の役目を果たしなさい。
貴女の死でエルフ共の目は誤魔化せる。貴女以外の者たちを生かすことができる。新たな龍の死を引き伸ばす事ができる。
詳しくは『王の嘆き』のダンジョンに残してあるわ。貴女一人で行きなさい。
そこの者達にこのことは言っては駄目よ。絶対に駄目。新たな龍を護るのに必要だから──
そこで文章が終わっていた。なんだこれ?なんだコレ?
「俺が悪いのか?」
「エン?」
「俺の死を引き伸ばすってなんだ?そんなことの為に天津は自ら死んだのか?アリス!どういう事だ!」
「エン、コレが読めるのか!何が書いてあるんだ!」
ルギアが俺に目線を合わせ聞いてきた。コレを俺に読めと?ルギアからの痛いぐらいの視線に耐えきれず、目線を外す。
丁度俺の背の高さで岩の壁に殴り書きがあるのが見えてしまった。
「ルギア。アリスからルギアへの伝言だ。──いつまでウジウジしてるの鬱陶しい。大切なモノがいっぱいあるくせに、守るべきモノもいっぱいあるくせに、わかっているふりだけして、気が付かない。いいえ、気がつこうとしない愚か者は青狼と同じだ──と」
俺がその言葉を伝えるとルギアは怒りを顕わにした。
「俺が敵前逃亡したグロスと同じだといいたいのか!」
俺は殺気をぶつけられたが、俺はアリスの伝言を伝えただけで、青狼が誰かなんて俺にはわからない。だが、ルギアは青狼が誰か、個人の名をだした。
ルギア、それは自分でアリスの言葉を認めてしまっていないか?
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