第109話 素質がないってこと
教会の中庭までマイアは無言で付いてきたが、黒猫をガン見しているのには変わりはなかった。
ライラは地面に膝をつき、祈りの姿になる。そして、アリスの呪いがこもった言葉を口にした。
「『シュはワレワレをミていてくださいます。シュはワレワレをアザワラい、ミクダしていらっしゃいます。しかし、ヒカリのカミはワレワレにジヒをおアタえになります。ヒカリのカミにエイコウをシュはジゴクにオちろ!ヒカリのカミ。ルーチェさま。このモノにジヒをおアタえください。』」
聞くたびに思うのだが、アリスの白き神への呪いのような言葉で喚び出される光の神はどう思っているんだろうな。
ライラの手から光が放たれると同時に背後に金髪の美しい女性が姿を顕した。しかし、困ったように首を振るのみで消えてしまった。
どういうことだ?マイアを見てみるが相変わらずライラの足元にいる黒猫を見ていて、光の神が姿を顕したことに気がついていない。
俺だけが見えているのか?俺の隣で外套を掴んでいるヴィーネを見てみると、ライラを見ていた視線を俺に向け、耳打ちをするように小声で「あの子、素質ある子なの。」と言ってきた。
次にフェーラプティスを見てみると、ライラに向かって祈っていた。いや多分ライラの背後にいた光の神に対してだろう。
という事は、マイアは言葉を聞く耳もなければ、見る目も持っていないってことだ。だから、両方無理なのか。
これ以上、俺ができることはなさそうだ。諦めて他を当たって欲しい。
「ライラ、ありがとう。無理を言って悪かったな。これ、お礼だ。」
飴玉が入った小瓶を手渡すが、ライラは受け取ろうとしない。クッキーの詰め合わせの方が良かったかな。
「小さなお星さまの物がいいな。」
小さなお星さま?・・・ああ、金平糖か。
「これか?気に入っているのか?」
金平糖と飴玉の小瓶の2つを差し出すとライラは嬉しそうに笑って言った。
「ふふ、これはエンからのご褒美だから頑張ろうって気になるの。私、頑張るから、だから、待ってて」
ライラは黒猫と共に教会の方に戻って行った。頑張るのはいいが、待つってなんのことだ?
教会の外に出て、フィーディス商会に戻ろうと足を進めれば、腕を掴まれ引き止められてしまった。マイアが俺の腕を痛いほど力を込めて掴んでいた。
「なんだ?」
「私に同じ物を作って」
「何のことだ?」
「あの黒い猫、君の魔力の残滓が見えた。あれは魔導生物でしょ?私にも頂戴!」
は?何を言っているんだ。あれはライラの守りに必要だから作ったんだ。何で今日会ったようなマイアに作らなければならないんだ?
「自分で作れ、魔力は多いんだろ?」
そう言えば悔しそうな顔をしてマイアはうつ向いた。マイアは魔力量が多いと言っていたが、俺の3分の1にも満たない。マイアの魔力では、あの転移門を稼働することができないのだ。
今の俺のMPは500万あるマイアは100万だ。いや、7桁ある時点で多いのだろう。しかもレベル46で100万だ。流石、王族といったところか。
マイア自身はMPはカンスト表記され、実際にどれだけのMPが存在するかわからないのだろうが、俺との差は感じ取っているに違いない。
「私は作ることができない。」
「そうか、悪いがマイアに作ってやる義理はない。あれはライラだから作ったんだ。それから、神云々は他を当たれ。これ以上は俺には無理だ。」
「無理・・・何故そんな事を言うの?」
「大金を出して神の声を聞く機会を与えた。そして、神の姿を見る機会を与えた。だが、お前は何を聞いた?何を見た?結果は何もなかった。素質がないってことだ。」
「神様のお姿を?いつ?どこで?」
マイアは俺の反対の腕も痛いほど掴んで、揺すってきた。体格差を考えてくれ、マジで痛いし、頭が揺れる。
何処からか冷気が這ってきた。春の暖かな日差しが差しているはずなのに寒い。
そして、マイアが俺から離れた。いや、離された。いつか見た怖い顔のフェーラプティスが黒い何かを出しながら、マイアの首根っこを掴んでいた。
ホラーバージョンのフェーラプティスを久しぶりに見た。黒いモヤのような物がマイアに絡み付いている。
そのマイアの肘から先が凍りついていた。
横を見るとヴィーネの水色の目が魔力を帯びて揺らめいていた。
「エンは悪くないの!悪いのは貴女なの!」
「そうですよ。聞く耳も見る目も持っていない貴女にエンさんを責めることはなりませんよ。」
二人に責められているマイアは崩れ落ちてしまった。言い過ぎてしまったのだろうか。いや、しかし、ここできちんとわかってもらわなければならない。
「精霊と妖精から言われるなんて・・・」
え?俺の言葉じゃなくって、精霊であるヴィーネと妖精であるフェーラプティスからの言葉の方が効果があるのか?
何でなんだ!
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