第62話 意味がわからん

「何、勝手なことばかり言っているんだ!はぁ、フィーディス商会の従業員だ。それ以上でもそれ以下でもない。ライラは同じ孤児院で育った幼馴染だ。」


 キアナとアルティーナは俺を見て、ライラを見る。


「もしかして、前からこんな感じ?」


 キアナの質問にライラは頷いて答える。何がこんな感じなんだ?


「分かって居ないのはエンだけ?」


 アルティーナの質問にもライラは頷いて答える。そして、3人は俺を見て揃って、ため息を吐いた。おい、失礼だな。


「ヴィーネ。エンからアイス貰っていいから、エンが帰らないように見張っときなさい。」


 アルティーナがヴィーネにそう言って、3人で離れた場所に移動して行った。なんで、ヴィーネにアイスをやることをアルティーナが決めるんだ?


「エン、アルティーナがアイスを貰っていいって言ったの。」


「なんで、ヴィーネにやらなきゃいけないのか、わからん。」


「愛人だからなの。」


「もっと、意味がわからん。はぁ。」


「くれなきゃ凍っちゃうの。」


 だから、思いどおりにならないと、凍らそうとするのをやめろ。仕方がなく、ガリガリな棒アイスをヴィーネの口に突っ込んでおく。はぁ。本当に帰りたい。


 周りから歓声が上がり始めた。どうやら、4基目の神輿が来たようだ。よくわからんが、神輿が中央広場に来るのがまちまちだったので、東西南北の各地区で何かしらしてから、中央広場まで駆けてきているようだ。


「最後のミコシが来たようですね。」


 隣からフェーラプティスの声が聞こえた。横を見るといつの間にかフェーラプティスが隣に座っていた。こえーよ。来たんなら座ったときに声ぐらい掛けてくれ。

 それにしても、シルキーって屋敷を自由に出入りするものなのか?


「4基で最後なのか?」


「ええ。各地区での勝者がミコシを担いで、中央広場までくるのです。」


 一体何の勝者だ?コレは何の祭りなのか本気で疑問に思ってきたぞ。


「で、これから何が始まるんだ?」


「エンさん。知らないのですか?」


 本当に知ってて当たり前みたいに思わないで欲しい。俺の知識は大半があちらの世界のものだ。こっちの世界は孤児院で与えられた知識とフィーディス商会での仕事関係の知識のみだ。


「ミコシで戦うのです。」


「は?」


 みこしでたたかう・・・意味が分からない。


「もうすぐ始まるので、見ればわかりますよ。」


「あー!フェーラプティス。なんで、エンの隣に座っているの!そこはキアナさんの場所ですぅ。」


 キアナとアルティーナとライラが戻ってきたようだ。


「空いていましたから。」


 キアナがフェーラプティスに詰め寄っているのを横目で見ていたら、ヴィーネが俺の腕を引っ張り一つ席をズレるように言われ、フェーラプティスが座っていた位置にライラが座り、ヴィーネが座っていたところにアルティーナが座ってきた。その隣にはアルティーナの横から手を差し出し、アイスをねだるヴィーネが座っている。

 なぜ、またアイスをねだられるのだ。


「あ!いつの間に!」


「キアナ、煩いからおとなしく座れ、始まるらしいぞ。」


 先程から開始の挨拶が始まっている。キアナはライラとフェーラプティスの間に強引に入り、おとなしく座った。


 出場者の説明がされているが、北地区代表でアウルクルム総統閣下の名が呼ばれると、割れんばかりの歓声があがる。先ほど南から来た南地区の代表の名が呼ばれ最後となるのだが


『南地区代表はなんと、我らが英雄ソルラファール様!』


 その言葉と同時に耳が痛いばかりに人々の興奮した喚声が天まで響き渡っている。


「英雄ソルラファールって誰だ?」


 余りにも人々の興奮具合が凄いので聞いてみる。ライラは首を傾げているので、分からないらしい。


「エンって馬鹿?あんなに毎日のようにご飯を用意していた癖に。」


 そのご飯に毎回ありつこうとしていたキアナに馬鹿と言われたくないが・・・ご飯を用意していた?


「もしかして、焼肉弁当が好物のソルか。」


「金狼獣人のソルさんです。」


 アルティーナ。別にそこは訂正しなくてもいいと思う。しかし、ソルがそこまで人気があるとはな。


「そういえば、南地区からの神輿が一番遅かったな。何かあったのか?」


「ソルが途中乱入して、引っかき回したからだ。」


 後ろから、ジェームズの声が聞こえ振り向くと商業ギルドのギルドマスターと一緒に座っていた。


「よくわからんが、途中参加可能なのか?」


「ああ、最終的にミコシをここまで持ってきたヤツが、舞台に立てるからな。」


 どうやら、途中まで神輿を担いできた人を押しのけて、ソルが神輿を奪い取って、中央広場に持って入ってきたらしい。もしかして俺が見た光景は・・・。


「あの、運んでいる人物の周りを囲みながら駆けていったのは、邪魔が入らないようにしていたのか?」


「そうだな。西地区のベルリーは部下に周りを固めさせているな。」


 そうか、あの神輿を担いでるとは認めたくない行動にはそういう理由があったのか・・・しかし、未だに神輿である意味がわからん。


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