第10話 小さな星

ライラside

 私はライラ。親が5歳の時に流行り病で二人とも死んでしまって、孤児院に預けられてしまった。

 寂しい。同じ親のない子供たちばかりが集まっているけれど、お母さんやお父さんはいない。

 夜中、寂しくて目が覚めてしまった。お母さんとお父さんに会いたい。起きてフラフラと孤児院の庭に行く。そこは半分遊ぶ広場で半分畑になったところだった。


「こんな夜中にどうしたんだ?」


 いきなり後ろから声を掛けられた。振り返ると黒髪の男の子が地面に座りこんで私を見ていた。


「お前、最近施設に来た子だよな。寝れないのか?」


「うん。」


「まあ、そうだろな。突然環境が変われば不安定にもなるよな。あ、そうだ目を瞑って口を開けてみろ。」


 何でだろう。言われたとおりに目を瞑って口を開けてみると、丸い物を入れられた。舌で転がすと甘いすごく甘い。


「寝る前に甘いものを食べるとダメなんだろうけど。甘いものは幸せの心になるそうだ。」


 甘い。これが幸せ?でも、心が『ほわん』とする。幸せの心?


「私のお母さんとお父さんが流行り病で死んでしまったの。」


 私は何故か男の子に私の事を話していた。


「私、一人ぼっちになってしまったの。私を置いてお母さんとお父さんが死んでしまって、私も病気になったのになんで私は死ななかったの?」


「神様がまだ早いって言ったからかな?」


「神様が?」


「君のご両親もきっと君のことを見守っているよ。そうだな、あの星のような感じかな?月の様に闇を照らすわけではないけど、暗闇で道に迷ったとき、顔をあげれば道しるべとして輝く星の様に、君が困ったとき、君の心の内から後押しをしてくれる存在かな。あー難しいなぁ。」


「輝く星。」


 私は空を見上げる。夜空にはたくさんの星がキラキラしている。この中にお母さんとお父さんがいる?私を助けてくれる?

 じゃ、私は頑張って生きて行こう。



 それから私はエンに付いて行くようになった。エンは他の男の子みたいに髪の毛を引っ張ったり、意地悪な事を言ったりしないからだ。

 でも、エン自身も孤児院の皆からいろんな事をされている。それでも、エンは何も言わない。一度、院長に言ってみればとエンに言ってみたけれど、「それをすると告げ口をしたと言われ大人の目がないところで酷くなるからしない。」と言われてしまった。だから、私は私だけはエンの味方でいようと思った。


 ある日、エンが畑でしゃがみ込んで何かを見ているようだったので話しかけてみれば


「ライラ、こいつおもしれー。背中で這って行くんだ。意味わかんね。」


 エンが指しているものをみると、何かの幼虫が確かに足を上にして這っている。


「可笑しいね。」


 そんな話をしていると、ここの孤児院の院長の息子であるドラクがいきなりエンに向かって殴ってきた。


「テメー。ムカつくんだよ。」


 エンは地面に倒れ、私はドラクに腕を掴まれ畑の外に連れて行かれた。え?意味がわからない。なんでエンが殴られる必要があったの?


 それから、私とエンがいればドラクがやって来て、エンが殴られたり蹴られたりするので、私はエンの側には行かなくなった。多分、エンの側に誰かがいることが気に入らないのだと思う。


 エンは私が困っていると何かと助けてくれる。最初の魔物討伐に参加したときもそうだった。誰かに言えばバカにされそうな話も真剣に聞いてくれて答えてくれた。


「それは、ゴブリンが怖いわけではなくて、皆が怖いと言うことか?」


 ん?皆が怖い?そうじゃない。


「あ。えーと。皆が怖いわけじゃなくて、私が人を殺すのが平気になるのかなって。」


「そう思っている限り平気になることはないんじゃないかな。それにライラは補助魔術をこれから覚えるのだから、直接命を奪い行動に出ることは滅多にないと思う。」


 あっ。


「そっか。エン、ありがとう。皆が怖いわけではなくて、私自身がそうなることを怖がっていたんだね。」


「ライラ。口を開けてみろ。」


 エンの言うとおりに口を開けると小さな丸い粒が口の中に入ってきた。最初にくれた丸いヤツに似ている。


「あまい!なにこれ!直ぐに無くなってしまった。」


 前と違って直ぐに小さくなってしまった。


「今日、頑張ったご褒美だ。じゃ、おやすみ。」


 エンはそうやって私にいろんな事を気づかせてくれた。


 そして、事件が起きてしまった。この日からティオ爺の指導員として付いては来ずに、ドラクだけが指導員として付き添うことになった。

 いつも隣で歩くドラクは今日はずーと話をしている。もう少し、周りを見た方がいいと思う。なんだか、いつもと違う道を行っている気がする。


「ドラクさん、少し奥に入り過ぎてませんか?」


「ティオ爺がいないときはこんなものだ。毎日、魔物が1体や2体じゃつまらないだろ。」


 え?なにそれ。


「敵発見。行くぞ。」


 エルムが走り出してしまった。ティオ爺がいたときと全然違う。

 今まで見たことがな緑色の獣型の魔物が一匹いた。それを倒したあと魔石を取り、またエルムが走り出してしまった。私はドラクに腕を掴まれ先に進まされていると、後ろの方でエンとビーチェが話をしていた。


「魔物の死骸を埋めないのか?」


「それ、魔力の無駄。」


 え。放置すると他の魔物が寄ってくるからダメだってティオ爺が言っていたでしょ。エンを手伝ってあげたいのにドラクに腕を掴まれて行けない。


 広い空間に出たと思ったら、先程の緑色の魔物に囲まれてしまった。その先には大きな黒い魔物が


「ブラックウルフ」


 ドラクが魔物の名前と思えるものを呟いた。そして、エルムは無謀にもその黒い大きな魔物に向かって行った。


「エルムやめろ、そいつはブラックウルフだ!」


 ドラクが声を掛けるが遅かったようで、エルムは黒い大きな魔物の足に潰されてしまった。そして、魔物の口の中へ。


「うぇ。」


 声をする方をみればサイが吐いていた。ビーチェも座り込んでいる。


「ライラ結界を張って二人を守れ」


 フーゴに言われ私は二人の前に立ち結界を張る。そして、ドラクとフーゴは剣を手に緑色の魔物に向き合っているけれど、手が震えている。

 そんなときエンが来てくれた。エンの剣に刺された緑色の魔物の頭が爆発した。

 え。エンって魔術使えたの?そう思っている間にエンが全ての緑色の魔物を倒してくれた。

 私たちの前に立ちブラックウルフに剣を向けているエンの背後からドラクが近づいていくのをみて、エンと一緒に戦ってくれるものだと思っていたら、ドラクはエンを切った。エンは唖然とした顔でこちらに振り向く。

 

「エン。」


 エンのところにいかなければ、走って行こうとすると、ドラクに抱えられエンから遠ざかって行く。


「フーゴ!ビーチェとサイを連れて逃げるぞ。」


「ドラクさん離して、エン!エン!」


 エンに呼び掛けるけど、見えなくなってしまった。


「フーゴ。身体強化で一気に森を抜けるぞ。」


 そう、ドラクが言った瞬間、エンがいる方向に白い渦が立ち上った。


「ドラクさん。エンが、エンを助けないと。」


「あいつは囮だ。少しでもブラックウルフを引き付けてもらわないとな。」


 囮!エンを囮にしたの!

 後方から白いモヤのような物が近づいて来ている。


「あれ、ヤバイよ。あれに捕まったら死んじゃう。」


 フーゴに背負われたビーチェが叫んでいる。段々背後に迫ってきて、もうすぐ飲み込まれると思ったら、白いモヤが止まった。助かったみたい。



 ミレーテの街に戻って来てしまった。冒険者ギルドに行って助けを頼もうって言ったら、無駄だから止めておけとドラクに言われた。


 私は一人で冒険者ギルドに駆け込み事情を話しても誰も首を縦に振ってくれない。どうしてどうして誰もエンを助けてくれないの?

 あとはティオ爺を探すしかない。そう思いギルドを後にすると、ティオ爺が丁度、目の前の通りを歩いていた。


「ティオ爺!ティオ爺!エンを、エンを助けて!ブラックウルフが出たと聞いたら、誰も行ってくれないの!」


 ティオ爺に頼んでもSクラス級のブラックウルフを倒すにはSランクの冒険者じゃなければならないと言われた。そのSランクの冒険者もこの国はいないどうすれば・・・。考えているとティオ爺に事情を聞かれ、質問に答えていった。どうしよう。エンもエルムみたいに食べられてしまう。あんなのは嫌だ。


「ティオ爺。私は怖い。もう、魔物と戦いたくない。」


 涙を拭ぐわれ顔をあげれば


「ライラ。あの、孤児院にいる限り、魔物討伐は課せられるぞ。」


 目の前にエンの顔があった。


「え。エン!エンだ!よかった。生きてた。ドラクさんに切られてしまったから、てっきり逃げられなくなったと思ったのに、よかった。」


「俺は孤児院を出る。もう、戻る事はない。ライラはどうする?」


「え?」


 孤児院を出る?


「だから、ライラにお別れを言いに来たんだ。ライラはあの孤児院で唯一俺に優しくしてくれたからな。ありがとう。」


「何処かに行ってしまうの?」


「行商人として各地を廻ろうかと思ってる。」


「そっか。わ、わたし・・・。」


 私も付いていきたい。

 その言葉を口にすることができなかった。


「ライラにこれを送るよ。ご褒美の甘い物だ。辛い時に食べるといい。」


 両手に持たされた物は小瓶の中にいろんな色の小さな星がたくさん入っていた。


「綺麗。」


「ライラ元気でな。ティオ爺ありがとう。俺行くわ。」


 そう言ってエンは行ってしまった。


「ライラ良かったのか?本当は付いて行きたかったのだろ?」


 ティオ爺にはばれていたみたいでも


「エンが自分の道を行くのなら私も自分の道にいきます。」


「そうか、孤児院まで送ろう。」


「ティオ爺。私は教会に行きます。私は命を奪うことより、人の傷を癒す仕事につきたいです。エンは私にたくさんの言葉をくれました。そのエンを裏切る様に置いて行ってしまった私はエンの側には立てません。だから、いつかエンに会ったときに胸を張れるように頑張って生きたいです。」


「今から送って行こう。」


 私は光の魔術を極めてみせます。いつかエンに会ったときに恩返しができるように。


挿絵:ライラ

https://33361.mitemin.net/i488812/

お時間があればどうぞ、ライラの挿絵になります。

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