第9話 ライラはどうする?

 ティオ爺は商業ギルドに付き合ってくれた。

 登録の申請をすれば、こんな小さな子供は登録出来ないと断られていまい、ティオ爺が12歳になるので登録はできるはずだと言ってくれたお陰で、渋々登録をしてくれた。

 しかし、今度は子供が変な物を売り出しても困るからと言って売り出す商品を見せろといいだしたのだ。だから、俺は麻袋に入った白い粉を見せてやったら、態度が180度変わった。現金なものだ。


 次は、この白い粉を取引してほしいと言い出したのだが、子供は信用に値しないからと言って断ってやった。

 そしたら、商業ギルドのギルドマスターまでが出て来て交渉しだしたのだ。子供は変な物を売るそうだから、首都の商業ギルドと取引するわけにはいきませんよね。と嫌みたらたらに言ってやったら、受付の人は半泣き状態だった。自分の人の見る目が無かったことを恨むんだね。


「しかし、よくあんな白い砂糖を見つけてきたな。どこで手に入れたんだ?」


「秘密だ。」


 そう、商業ギルドの人たちが欲しがったのは、精製した白い砂糖だったのだ。砂糖自体、俺は見たことがなかったが、やはり白い砂糖は珍しかったらしい。


「エン。お前は不思議なヤツだな。」


「そうか?」


「ここ最近、一緒にいるが、長年の友の様に酒でも飲み交わしながら話したいと思うことがある。まだ、子供のお前にだ。」


「爺くさいってヤツか。」


「おう。それに今回のことも、普通ならドラクにここまでやられたら、やり返そうと、わしの所にくる前にドラクに剣を差し向けるのが普通だろ?しかし、お前はそれをせずに、わしのところに報告に来た。」


「子供の喧嘩ならそれでいいと思う。けど、今回はそれじゃ収まらない。確かに一発殴れば気がすむかも知れないけど、それで終わらせたらいけないことだ。私怨よりも社会性を重要視しなければならない。」


「そういうところが子供じゃないよな。静観しているところが。」


「もし、今回のことに指導員であるドラクがいなかったら違うかっただろうな。」


 ん?何やら冒険者ギルドの方が騒がしい。嫌な予感がするので、先程、商業ギルドでティオ爺が餞別として買ってくれた外套を羽織りフードを深く被った。


「ティオ爺!」


 この声はライラのようだ。


「ティオ爺!エンを、エンを助けて!ブラックウルフが出たと聞いたら、誰も行ってくれないの!」


「ライラ、ブラックウルフはSクラス級の魔物だ。そうそう、手を出すことができない。そもそも森の奥深くに住んでいるブラックウルフはよっぽどの事がない限り街道沿いには出てこない。そのブラックウルフが街道沿いに出てきたとすれば、Sランクの冒険者に頼むしかない。」


 へ?ブラックウルフってSランク級なのか?ただ単に大きいだけの狼じゃなかったのか。俺、普通に倒してしまったぞ。あ。そういえば魔石Sってなっていた。


「Sランクの冒険者は何処にいるの?」


「Sランクの冒険者なんていない。この国には1人いたが、修行の旅に出るって言って出ていってしまったからな。」


「そんなぁ。」


「他のメンバーはどうした?冒険者ギルドにおるのか?」


 ライラは首を振り


「冒険者ギルドには行かず、そのまま孤児院に帰って行った。」


 は?あれだけの事をやらかして冒険者ギルドに報告せずに帰ったのか。


「エン以外の全員でか?」


「違う。エルムは一番始めにブラックウルフに向かって行って、潰されて食べられてしまったから、いない。」


「同じ内容だな。」


 あ?もしかしてティオ爺、俺が言っていたこと信用してなかったのか。いや。エルムに関しての詳細は俺にはわからなかったから、それの補足か。


「ティオ爺。私は怖い。もう、魔物と戦いたくない。」


 俺はライラの涙を拭ってやり


「ライラ。あの、孤児院にいる限り、魔物討伐は課せられるぞ。」


「え。エン!エンだ!よかった。生きてた。ドラクさんに切られてしまったから、てっきり逃げられなくなったと思ったのに、よかった。」


「俺は孤児院を出る。もう、戻る事はない。ライラはどうする?」


「え?」


「だから、ライラにお別れを言いに来たんだ。ライラはあの孤児院で唯一俺に優しくしてくれたからな。ありがとう。」


「何処かに行ってしまうの?」


「行商人として各地を廻ろうかと思ってる。」


「そっか。わ、わたし・・・。」


 ライラは唇を噛んで下を向いてしまった。俺はイベントリーから小瓶を取り出す。ライラへの餞別とご褒美を兼ねた色とりどりの金平糖だ。


「ライラにこれを送るよ。ご褒美の甘い物だ。辛い時に食べるといい。」


 そう言ってライラの両手に握らす。


「綺麗。」


「ライラ元気でな。ティオ爺ありがとう。俺行くわ。」


 そうして、俺は生まれ育ったミレーテを後にしたが、直ぐに戻って来るとは思いもしなかった。


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