第8話 絶対零度

 あいつらに追い付くべく、体に魔力を纏わせ身体強化をして、走って行く。見えた。10匹程のグリーンウルフに囲まれ、ドラクとフーゴが奮闘しているようだがエルムの姿が見えない。


 もう少し近づくと一番奥に3メルメートル程のブラックウルフがいた。ヤバイ。あれはやばい。即時撤退するべきだ。ブラックウルフの口から人の腕が見えているが、まさかエルムがやられたか。

 ライラとビーチェ、サイの所在を確認すれば、どうやらライラが結界を張っているよだが、ビーチェとサイが腰を抜かしている。


 取り敢えず、周りのグリーンウルフから倒すか。レイピアを抜き、身体強化をしたまま目の前の1匹に狙いをつけて一突き、頭が弾けた。あ。やりすぎた。続けて向かってくるヤツの眉間を突く。今回は普通に頭を突き抜けた。レイピアを引き抜き、次のグリーンウルフへ向き合う。


 グリーンウルフはなんとか倒したが、あのブラックウルフからどうしたら逃げられるか。

 ドス。

 体に衝撃が響いた。衝撃で、被っていたキャスケットが地面に落ちる。後ろを振り返るとドラクが剣で俺に切りつけていた。


「エン。」


 ライラが結界を解いて、走って来ようとしたが、ドラクに掴まれ


「フーゴ!ビーチェとサイを連れて逃げるぞ。」


「ドラクさん離して、エン!エン!」


 ドラク貴様、俺を囮にして逃げようってことか!

 ブラックウルフが動き出した。なぜ、俺が貴様らの尻拭いをしてやらなければならないのだ。ああ、ムシャクシャする。ヤればいいのだろ。ヤれば。


 ドラクこれで生き残ったら、俺に剣を突き立てた事はチャラにしてやるよ。俺は魔力をレイピアに込めて地面に突き刺す。


「『絶対零度』」


 数年前、スライムを森ごと凍らせてしまった術だ。身体的にも精神的にも不安定な状態で500メルメートル凍らしたのなら、今の状態では何処まで行けるかな?


 通常の生物が生きて行けない世界。−273.15 ℃の凍りついた真っ白な世界が広がっている。白い息を吐きながら、マップ機能を見てみると


「ちっ。」


 どうやら逃げ切られてしまった。逃げ足だけは早いな。この絶対零度の世界が2キロメルkm四方に広がっているのに、その距離を走り切るなんて、俺に剣を突き立てたことはなしにしてやるよ。


 目の前にたたずんでいる、凍りついたブラックウルフにレイピアを突き立てる。脆く粉雪のように崩れ去っていった。その崩れ去った中に大きな魔石があるのを発見。スライムの魔石は耐えられなかったが、ブラックウルフの魔石は残ったのか。運がいい。


 ネットを開き課金画面を出し、魔石をよく分からない空間に落とし入れる。


『ブラックウルフの魔石S=10000000円になります。課金しますか?』


 ?。0の数おかしくないか、1千万円?もう一度、0の数を数えてみる。一、十、百、千、万・・・1千万。まじで!


 これさ、もう行商人になれるんじゃねぇ?あの、苦痛しかない孤児院に戻る必要も無くないか?12歳から出られるし。

 でも、何も言わずに去っていくのもダメなような気がするな。ティオ爺とライラだけには言っておくか。


 魔術を解いて、首都の方へ足を向けた。


 首都の街に戻り先にティオ爺を探す事にした。こういうときは、グルグルマップは便利だよな。ティオ爺って何て名前だったっけ?まあいいや。

 ティオと入力してみる。世界中にピンが刺さってしまった。

 え、これはこれで、問題だな。首都周辺で見てみると。3人か。一ヶ所づつ当たってみるか。

 一番近いとことは、そこの食堂か、今は昼時になるのか。行ってみると、一発目で当たりだ運がいいな。ティオ爺の前に行き声をかける。


「ティオ爺。」


「お?エンどうした?」


「問題がおきたから、俺、孤児院出ていくわ。」


「端的過ぎてわからん。」


「問題だらけだった。ティオ爺の監視のないあいつらの行動聞くか?」


 そして、おれは今日あったことをティオ爺に話した。


「なんだと!北の森でブラックウルフが出ただと!」


「それは、俺が倒したから問題ない。俺は確認できていないが、エルムが多分ブラックウルフに食べられたと思われる。行ったときには姿が見えず、ブラックウルフの口から人の腕が出ていた。一番の問題は、ドラクに俺が切られ囮にされたことだ。」


「お前はワシの目の前で元気そうだが?」


 俺は背中を見せながら


「これが切られた跡だ。」


「確かに服が切られているが、下に何を着ているのだ?」


「特殊な防具だな。入手経路は秘密だ。」


 そう、俺は討伐チームに入る事になることはわかっていたので、スライムの魔石をコツコツ集め、ネットで防具を手に入れていたのだ。防弾チョッキというものだ。俺たち孤児には武器は与えられても、防具は与えてはくれなかったのだ。


「はぁ。参ったな。わしの目が届かなくなったとたんにこれか。それで、孤児院を出てどうするのだ。」


「前に言っていたとおり行商人をする。もう、あの孤児院には帰らない。命がいくつあっても足りないからな。ティオ爺には世話になったから挨拶はしていこうと思って探してきた。」


「そうか、商業ギルドには付き合ってやろう。まだ、その見た目じゃ登録できんかもしれんがな。」


 まだ、小さくて悪かったな。



挿絵:絶対零度の世界

https://33361.mitemin.net/i488379/

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