第11話 アイツは気に入らない

ドラクside

 俺には気になっている女の子がいる。最近孤児院に来た。ライラという5歳の銀髪青目のかわいい女の子だ。


 最初の頃は一人でいることが多かったので話かけるが、うつむいてしまって何も話さない。まあ、親が死んで孤児院に来たのだから、ここに慣れれば話す機会も増えるだろうと思っていた。

 しかし、あるときから、あの黒髪の生意気なガキと一緒にいることが多くなっていった。この前なんか、畑で二人で話していると思ったら、ライラが笑っていたんだ。

 俺には笑ってくれないのにだ。ムカついたから、エンのヤツを殴ってやった。


 ライラとエンが一緒にいるのを見つける度に邪魔をしてやり、嫌がらせでエンのご飯を取り上げてやった。


 あるとき、ライラがエンに何かを渡しているのを見つけて、その夜エンを冬の夜の外に追い出し、エンの物をひっくり返して探したがそんな物はなく、布団も全部剥ぎ取ったが何も見つからなかった。

 翌日ライラに何を渡しているのかと聞けば、ライラがエンから手荒れが酷いそうだからといって、蜜蝋のクリームを貰ったらしい。紛らわしい。


 また、別の日は冬の手伝い仕事である、川で染料を落としながら二人が仲良く話しているのを見てムカついたので、そのまま川にエンを落としてやった。しかし、エンはその日飄々とした顔をして戻ってきた。本当にあいつはムカつく。



 今年からライラが討伐チームに入るが残念なことに俺は親父の後を継ぐために、孤児院の運営を手伝わなければならなくなった。ライラだけが討伐チームに入るのなら別によかったのだが、エンも入るのだ。それは、絶対に許されることではない。


 そう思い、親父に討伐チームの指導員をしたいといってみた。元々の指導員であるティオ爺に交渉してくれたようで、ティオ爺の言うことを聞くのであれば、いいということだった。その代わり他の時間は孤児院の運営のための勉強をするように言われてしまったが、それでかまわない。


 初日のギルドへの付き添いをしたかったが、ティオ爺の目のある間は何もしない。指導員をはずされてしまったら困るからな。


 しかし、孤児院に帰ってみれば、親父に呼び出されエンの食事を取り上げていたのかと聞かれたので、

 そうだと答えた。

 親父は怒りだし孤児にも人権と言うもの存在すると、この国は立憲国家だ。生命と自由、所有権と幸福に生きる権利は誰にでもあるというのだ。この施設は親を失った子供に生きる権利を与えるために国が作ったものだ。お前はそれを侵害したのだと。


 意味がわからん。そんな難しいことを俺に言われてもなぁ。取り敢えず、エンのご飯を取り上げなければいいのだろ?


 それから、一ヶ月が経ちこれから毎日ライラと一緒にいられるのが嬉しい。邪魔なエンは前衛の方にいるのでライラと話をすることもない。ティオ爺の監視の目がある間はおとなしくいてやるよ。


 今日からティオ爺が俺たちだけで十分対応できると言って、指導員を外れた。やっと、ゴブリンだけのつまらない討伐から、いろんな魔物の討伐に行ける。


 前もってフーゴには森の奥に行くように言ってある。ライラは今日も可愛い 、相変わらず俺の前じゃ口数が少ないが、照れているのかな。


「ドラクさん、少し奥に入り過ぎてませんか?」


 ライラのかわいい声で尋ねられた。


「ティオ爺がいないときはこんなものだ。毎日、魔物が1体や2体じゃつまらないだろ。」


 本当にこの2ヶ月はつまらない討伐だった。


「敵発見。行くぞ。」


 エルムが走って行った。早速、獲物が見つかったらしい。いたのはハグレのグリーンウルフだった。ついているな。いつもなら3匹ぐらいいるのに、1匹なので直ぐに終わり、エルムがまた駆け出していった。俺はライラの手を取りエルムの後を追う。エンとビーチェが何か言っているが、死んだ魔物を埋めるなんて無意味なことだ。


 エルムを追い広い空間に出るとグリーンウルフに囲まれてしまった。そして、その奥には


「ブラックウルフ」


 何故こんなところにSクラス級の魔物がいるんだ。


「エルムやめろ、そいつはブラックウルフだ!」


 エルムに声を掛けるがそのままブラックウルフに突っ込んでいき、エルムはブラックウルフに踏み潰され、喰われてしまった。


「うぇ。」


 声をする方をみればサイが吐いていた。ビーチェも座り込んでいる。


「ライラ結界を張って二人を守れ」


 フーゴがライラにそう言うが、こんなものを相手に勝てるはずがない。グリーンウルフが飛びかかってくるのを牽制するので精一杯だ。数が多すぎるそれにブラックウルフには絶対に敵わない。


 必死になってグリーンウルフの相手をしていると、攻撃してくるものが少なくなってきた。周りを見てみるとエンがグリーンウルフを倒していた。またお前か、そうだエンを囮にしよう。俺たちが逃げられて、ライラの周りを彷徨く事が無くなるなんて、何ていい方法だ。

 俺はエンの背後に忍び寄り、右肩から左下に向かって切りつける。人を切りつけるのは初めてだが、こんな感触なんだろうか。

 エンが振り向き俺を見る。全部お前が悪いんだよ。


「エン。」


 ライラがこっちに走ってこようとするので、慌てて抱え走り去る。


「フーゴ!ビーチェとサイを連れて逃げるぞ。」


「ドラクさん離して、エン!エン!」


 ライラがエンエンと、うるさいな。


「フーゴ。身体強化で一気に森を抜けるぞ。」


 魔力を全身に込め一気に駆け出す。


「ドラクさん。エンが、エンを助けないと。」


 エンなんて助けるか。


「あいつは囮だ。少しでもブラックウルフを引き付けてもらわないとな。」


 ビーチェが何か騒ぎだした。


「あれ、ヤバイよ。あれに捕まったら死んじゃう。」


 確かに背後から異様な冷気を感じる。森を抜けたところで振り返ると、森が真冬の様に真っ白に凍っていた。


 ミレーテに戻ればライラが助けを呼ぼうと必死だったが、誰がブラックウルフの討伐なんてするか。この国にはSランクの冒険者なんていないんだぞ。ライラは冒険者ギルドに行くと言って背を向けて走って行った。どうせ、直ぐに帰って来るだろう。フーゴ、ビーチェ、サイを引き連れて孤児院に帰った。


 翌朝になってもライラは帰って来なかった。

 心配になり、孤児院の玄関の扉を開けると、そこにはミレーテの警官隊がいた。その一番前には親父とティオ爺が立っていた。


 俺を逮捕だって?なぜだ。未成年者の殺人未遂と保護者として危険地帯への誘導だって?なんだそれは、危険地帯っていつも森へ行っているじゃないか。未成年者は森の浅瀬にしか行ってはいけないだって?そんなこと聞いていない。ミレーテの条例で決まっている?冒険者ギルドでも説明している?

 なんで、俺だけなんだ。成人しているから?指導員としての立場?

 親父何とかしてくれ、俺が逮捕されてもいいのか。

 何度も忠告した?俺は、俺は悪くねー。


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