第41話 お前の親父と同僚だ
青色のガリガリなアイスを渡し、事なきを得た。きっとあのままだったら、俺が氷アイスになっていただろう。
「そのアイス食べたら帰れよ。」
「ヴィーネはこれを気に入ったもう一つ欲しい。」
なんだ、これにデジャヴを感じるのは気のせいだろうか。
「なんだ?お礼に来たと言いながら、物をねだるのが普通なのか。」
ヴィーネははっとした顔になり、モジモジしだした。
「ヴィーネはお礼を言いに来たのだった。あまりにも美味しかったのでお礼を言ったらもう一つ欲しい。」
何かおかしいぞ。お礼を言ったらもう一つ貰えるというのはなんだ。
「じゃ、お礼はいいから帰れ、俺はメシを食いに行くから。」
そう言いながら立ち上がり、ドアの方に歩みだすが、後ろから首に掴まれた。待て待て首にモロに入っている。掴んでいる腕を外し
「俺を殺す気か。後ろから、思いっきり首に掴まるバカがどこにいるんだ!」
「ヴィーネはまだお礼を言っていない。」
「自分の要望が何でも通ると思うな。人の部屋に勝手に入ってくるのは精霊だからという理由は通らない。それに俺はお前を助けたわけではない。この街に用があっただけで、襲っていたサーベルマンモスを操っていたと思われるお前にサーベルマンモスを元のところへ帰してもらうためだった。だからお礼はいらない。わかったな。」
俺は、ヴィーネを無視して外に出る。そこにはゼルトのオッサンが腕組みをして待っていた。
「お礼ぐらい聞いてやってもいいんじゃないか?」
「お礼を言われたら物をねだられるのだが?」
「お、おう。それはちょっと困るな。メシに行くか。精霊の嬢ちゃんはどうするんだ。行くか?」
ゼルト、誘うんじゃねー。
一軒の食堂で俺はメシを食っている。塩味のスープと塩味の肉ともそもそのパンのメニューしかない食堂だ。もう少しバリエーションがほしいな。
おれは黙々とその塩味しかない食事をしているが、なぜか周りの視線が痛い。キャスケットの上からフードをかぶっているので、黒髪は見えないはずだが、なんだ?やっぱり隣で5本目のアイスを食べているヴィーネがいるからか。5本はいくら氷の精霊といえども食いすぎだよな。
結局、お礼を言われアイスをねだられた。おかしいよな。
ヴィーネはここの南にある山にいる精霊らしく、そこは年中溶けない氷の洞窟があり、そこで昼寝をしていたら、気がついたら人に捕まっており、怪しい首輪を付けられ自由が効かなくなってしまっていたらしい。唯一できたのが友達であるサーベルマンモスを呼びつけることだったらしい。
サーベルマンモスが友達ってのは精霊だとありなのか、そうですかありですか。
「気になったのだが、いつから昼寝をしていたのだ。」
「・・・?」
ヴィーネは首を傾げ考えているようだが
「んー。ヴィーネわかんないの。そういえば、仲間がいつまでも寝ていると置いていっちゃうよ。って言っていたような気がするの。」
それって、ギラン共和国に変わってしまったから、精霊が離れて行ったときの事を言っているわけではないよな。それなら、200年は寝ていた事になるんだが。
「ゼルト。言われていたものができたぞ。」
いきなり、頭の上から声が降ってきた。どうやらゼルトの知り合いらしい。
「おう。ソル、悪いな。帰りに寄っていくから。」
「で、あれを倒したって奴はこのちびっこか?」
そう言いながら俺の頭に手を置いて来た。思わず手を払いのける。
「お。元気がいいな。しかし、このちびっこがなぁ。」
声の主は俺の顔を覗き込んで来た。この辺りでは珍しい金髪金目の金狼の男性だ。狼獣人はギラン共和国にもいるが、金狼獣人はもっと南の国が縄張りだとジェームズが話していたはずだ。俺の顔を見たソルという男の顔が固まった。
「おい、ゼルト。ルギアはいつガキを作ったんだ?」
ちょっと待て、黒髪もオプションの耳も隠しているのに、ルギアのオッサンと血縁関係疑惑が浮上するのだ。
「本人たちは否定をしているぞ。」
「いや、どうみてもこれは・・・くくく、だからか。だから、ジェームズがおかしな動きをしているのか。これは、面白い。」
ジェームズがおかしな動き?確かにマタタビの小枝を噛んでいる姿はよく目にすることはある。日常化していることだから不思議には思わなくなってきたな。
「なぁ。ゼルト。面白いことになっているんだろ?俺も首都に戻ろうかな。あ、俺はソル『四獣の剣』の元メンバーだ。お前の親父と同僚だ。」
「俺に親父はいねー!」
ドヤ顔する金狼の男の顔を俺は殴りつけた。
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