第40話 アイス食べるか?

「エン。お前、聖魔術使えたのか?」


「なんのことだ?オッサン。ボケ始めたか?」


「おい、さっき・・・いや、なんでもねぇ。」


 ゼルトは何も見なかった。それでいい。


「で、オッサン。流された人は無事なのか?」


「ああ、気絶しているだけで、どうもない。」


「じゃ、このまま撤退で。」


「このままにするのか?それはだめだろ。」


「この状況をどうしろと?氷の精霊を奴隷として捕まえていたという証拠の本人は首輪を壊して魔物を引かせるために解放してしまったし、掘っていた穴も水で埋まってしまったし、証拠という証拠は無くなってしまった。ただ、魔物が襲撃してきて、去って行ったという街の人の記憶が残っているだけだ。ああ、あと俺が倒した魔物の残骸か。」


 ゼルトは頭を抱えうなだれた。


「コートドラン商会を潰せるネタができたと思ったのに、全て無くなってしまったなんて!なんていうことだ!エン。一つぐらい証拠を残しておけよ。」


「オッサンがコートドラン商会を潰したいと今初めて聞いたが?街が無事だったそれでいいじゃないか。」


 ゼルトはうなだれながら、騎獣を連れて歩き出した。この街のフィーディス商会に向かって行っているのだろう。


 マルス帝国と繋がりがあるコートドラン商会か。あの首輪は本当に何だったんだ?獣人を奴隷にしている国だと聞いていたが、あんなものを奴隷に使用しているなんて、ヤバすぎないか?

 もしかして、この国の人たちをマルス帝国に連れて行っていたりするのか。だから、ゼルトはコートドラン商会を潰したと言っていたのか。コートドラン商会をこの国に入れなくすることができればいいのだろうな。って、俺は行商人希望だってぇの!


 そんなことをウダウダ考えているうちにフィーディス商会の支店に着いた。店には従業員はおらず、ここの支店長のみが店に居た。どうやら、戦える者は外壁の外に行き、物資が必要なら運搬要員があっちこっち走りまわり、戦えない者は避難をしているということだった。

 支店長には問題は解決したので、従業員は帰って来るだろうということをゼルトが説明をしていた。

 マップ機能で周辺を見てみても、魔物を示す赤い色の表示は南の方に向かって行っているので、氷の精霊がもといたところに帰してくれているのだろう。


 先に商品の引き渡しをしたいのだが、支店長はソワソワしてそれどころでは無いようだ。


「オッサン。商品は注文されていた分だけ、倉庫にまとめて置いていたらいいか?今日は後3つの支店に行く予定だろ?」


「今日はここまでだ。」


「は?なんでだ?」


「俺は、疲れた。精神的に疲れた。俺は寝たい。」


「オッサン。冬眠にはまだ早いぞ。ただでさえ、いつも朝起きるのが遅くて予定より遅くなっているのに、これ以上遅らせるきか?」


「冬眠じゃねぇ!朝が起きれないのは種族的な問題だ。まだ朝は寒いのにもっと寒い上空なんて耐えられん。」


「はぁ。じゃ、今日はここまでなんだな。今日はどこで泊まればいいんだ?」


「店の裏だ。付いてこい。」


 支店長しかいない店の中を通りぬけ、春の背の低い雑草が生えている中庭に出た。それを踏みしめながら、奥の建物に向かう。そこには、2階建てのハイツのような外向きに玄関扉が並んでいるのが見え、ゼルトが1階の端の部屋を指しながら、一番端とその隣が使っていいところだ。と言って、ゼルトは一番端の部屋に消えていった。

 仕方がなく俺はその隣の部屋に入る。部屋は6畳程の広さで、ベッドとものを書く机が置いてあるだけのシンプルな部屋だった。

 お昼はとっくに過ぎているが、どうしようかとベッドに横になる。今、街に出ても色々大変そうだし、余所者で黒髪の俺が出ていっても嫌な思いをするだけだろう。ゼルトの言うとおりに一眠りするか、起きた頃には街も落ち着いているだろう。




「エン。エン起きろ!メシに行くぞ。」


 ドアを叩く音と、ゼルトの大声が部屋の中には響き渡る。


「エン。起きないとメシが食えなくなるぞ!それ以上小さくなるきか?」


「うるせー!これ以上小さくなるはずないだろ!」


 失礼なゼルトの言葉に叩き起こされ、体を起こすが重い。掛け布団をめくると、青みがかった白い髪が見える・・・どこかで見た色だなってさっきの氷の精霊じゃないか!なぜ、こんなところにいるんだ。


「おい、起きろ。重い。」


「重いってレディに失礼なの。」


 顔を上げた水色の目が睨みつける。15歳ぐらいの容姿に見えるが、精霊はどれぐらい生きるのだろうな。


「レディは人の部屋に勝手に入ってこない。」


「ヴィーネは精霊だからいいの。」


「じゃ、精霊は人の街には住まないから帰るといい。」


「ヴィーネはヴィーネだからいいの。」


「何しに来たんだ。さっさと帰れ。」


「ヴィーネは助けてくれたお礼を言いにきたの。」


「わかった。聞いたから帰れ。」


「う゛。」


 水色の瞳がうるうるしてきた。え?何が泣く要素があったんだ?なんだが寒い息が白くなってきた。こいつか!氷の精霊がやっているのか。扉の外からゼルトが『何やっているんだ!冷気が部屋から出ているぞ。』と言っているから、やはりこいつが原因か。

 どうすれば機嫌が治るんだ・・・


「アイス食べるか?」

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