第118話 このアンバランスな物体は何だ?
「この度は我らが里を救ってくださり、ありがとうございました。英雄様」
そう言って、魚人の男性と女性が土間に座ったまま頭を下げてきた。多分、男性は生贄にされた代表者の女性の夫なのだろう。
しかし、俺に向けて言っているような気がするが、英雄は俺の隣の二人だぞ。
俺はチラリと隣の二人を見る。ソルと目が合い、ソルが俺に向かって頷いてきた。
あ?何の頷きだ?
「頭を上げてくれ、前回の事の礼はきちんと貰った。それにそこのちっちゃい英雄様も困っているしな」
おいソル!ちっちゃい英雄ってなんだ!俺は英雄なんかじゃないぞ!
「それに今回はダンジョンマスターに聞きたい事があるんだと」
「そうでしたか。大したおもてなしは出来ませんが、ゆっくりしていってください」
そう言って、二人は囲炉裏から離れ小屋を出ていった。二人が離れた囲炉裏の端には串に刺さった魚が火に炙られており、中央には鍋が火に掛けられていた。
もしかして、あの二人の晩ごはんを横取りした?
『さぁさぁ、座って、座って。食べて、食べて。』
そう言ってアホー鳥は囲炉裏の側に飛んで行って着地をした。
「おい、これは誰かの食事を横取りしたものか?」
『あ、違うよ。今日は元々話し合いの席を設けていたんだ。この里の数人を呼んで、これからの事の話し合い』
やっぱり、横取りしてるじゃないか。それも予定があったところを邪魔してしまったらしい。
「悪かったな」
『話し合いはいつでもできるからいいんだよ。で、何が聞きたいのかな?』
目の前の鳥は器用に囲炉裏に刺さった魚を取り、啄み始めた。熱くないのか?
「2つ聞きたいことというか、頼み事があるんだ」
『僕に頼みごと?』
九官鳥が首を傾げている。鳥は飼ったことは無かったが、可愛く思えてしまった。いや待て、中身はアホー鳥だ。
「1つはダンジョンマスターはダンジョンの外に出られないのに、どうやって魔物の体に意識を憑依しているのかが知りたい」
『わからない』
即答だった。いや、実際に憑依しているじゃないか!わからないって事はないだろ。
『だってさぁ。できちゃったんだよねー。僕も必死だったからね』
そうか。ダンジョンの維持が出来なければマスターも存在できなくなるのか。
「じゃ、魔物に憑依したままダンジョンの外を何処まで行けるんだ?」
『うーん。何処までって聞かれてもこの周辺しか出たことなかったし、遠くに行く必要がなかったから、わからないな』
俺は無理な事を頼んでいるのだろうか。エルフの件にエルトのダンジョンマスターを巻き込むのは違うと思うが、エルトのダンジョンマスターに出来てユールクスが出来ないってのはなんだ?何が違うんだ?
確かに個人差で出来る出来ないはあると思うが、アリスが最凶と言ったユールクスが出来ないってなんだ?
そもそもダンジョンマスターって俺たちと基本的に同じだと思い込んでいたが、ステータスとかあるのだろうか。
鑑定してみるか。心の中で『鑑定』と呟く。
ロロ(憑依中)
HP 2000
MP 689490
STR 5500
VIT 680
AGI 3800
DEX 1000
INT 30000
MND 5000
LUK 400
何だ?このアンバランスな物体は・・・っていうかこれダンジョンマスターのステータスじゃなくて、鳥自体のステータスじゃないか!
俺は馬鹿だ。考えたらわかることじゃないか。
「なぁ。ダンジョンマスターってステータスは存在するのか?」
本人に聞くのが一番早いよな。九官鳥は首を傾げ『ステータス?』と呟いている。やはりないのだろうか。
『魔物みたいな
違うのか。スキルとか称号とかで変わってくるのかと思っていたが、今度ユールクスを鑑定してみるか。
「んっじゃぁ。もう一つのお願いなんだけど、アリスって黒髪のエルフのことは知っているか?」
『知っているよ。ダンジョンを散々荒らして僕を脅して、ダンジョンに落書きしたエルフだね』
アリス!めっちゃ感じ悪いぞ!ダンジョン荒らしたのか!
「あ・・・うん。そのエルフだ。そのエルフが書いた落書きのところに行きたいんだ」
『それなら、裏ダンジョンにあるよ』
「知ってる。知っているんだが、俺がダンジョンに入ると摩訶不思議現象が起きるらしい」
『摩訶不思議現象?』
「ああ、例えばミレーテのダンジョンで裏ダンジョンの魔物が表に出て来たとか『ああ』・・・」
俺が話しているのにアホー鳥が割り込んできた。
『確かにそんな子いたよね。僕が設定していないのに、階層が海水で満たされた事があったよ。落とし穴なんて作ってないのに下の階層に落ちて行ったりとか「え゛?」僕のダンジョンにいない魔物がいつの間にか居たり「マジか!」とか』
ルギアとソルが驚いた顔をしてアホー鳥を凝視している。
天津!何処まで運が悪いんだ!
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