第79話 信頼される理由がわからない

 フィーディス商会に戻れば、フェーラプティスにジェームズの執務室に行くように言われた。今日は休みのはずだがどうしたのだろう。


 ジェームズの執務室の扉の前に立ち、ノックをする。入るように言われ、中に入るといつか見た筋肉隆々の狐獣人のおっさんがいた。確かアウルクルム総統閣下だったな。


「ジェームズ、何の用だ。今日は休みのはずだ。」


「ああ、用があるのは俺じゃなくて、アウルだ。」


 やっぱり、このおっさんが俺に用があったのか。


「狐のおっさん、俺に何の用だ。」


「お、おっさん・・・相変わらず口が悪いクソ餓鬼だ。」


「そのクソ餓鬼に何の用だ。」


「今日はパーティーがあるから一緒に行こう。」


 パーティー・・・あの天津がクリスマスをしたいがために作られたギラン祝賀パーティーか!


「嫌だ。行きたくない。」


 絶対にろくなことになっていない。祭りの神輿をあの様にされていたんだ。何かしらおかしなパーティーになっているに違いない。


「いや、君は行くべきだ。そこで次回の祭りの事を説明してほしい。」


「もう、好きなように武闘大会をすればいい。」


「それでは意味がない。君がいることに意味があるのだ!」


 ああ、天津とルギアの血を引いているってやつか、面倒くさいなぁ。そういうのは嫌いだ。


「俺は俺だ。孤児のエンだ。そんなものに絶対に行かない。」


 そう言ってジェームズの執務室を後にした。扉の向こうから『だから無駄だと言っただろ』と言うジェームズの声が聞こえてきた。


 そうだよな。この国にいればこの国の礎を築いた天津と英雄と言われたルギアの子供扱いされるよな。家族らしい関係性もない人物の子供扱いされるのは嫌なものだ。


 中庭に出ると雪が降っていた。本格的に厳しい冬がやってくる。雪に埋もれ、閉ざされた世界となる。白い世界。

 あまりいい思い出のない冬。嫌だな。春までは大人しくしておこう。




 このフィーディス商会で2度目の春を迎え14歳になった。運搬業務も2年目となるのだが、今思い返せば、まともに商品運搬をした記憶が2回とはおかしいな。

 ゼルトも冬季休暇が明けて久しぶりに見かけたので挨拶をしたら、相変わらず小さいなと言われた。一冬でそんなに伸びるか!


 ゼルトと共にジェームズに呼ばれたので、執務室に行くと、ジェームズが思ってもみない提案をしてきた。


「は?どういう事だ?」


「だから、エンのおかげで運搬業務も余裕が出てきたのだ。なので、ゼルトと共に町を回りながら、物を売ってみないかということだ。行商人になるのだろ?」


 確かに、行商人になるとは言ったが、運搬業務はどうした!


「ジェームズ、最初に言っていたよな。3年間、運搬業務をしてもらうと。」


「言っていたが、業務改善をエンがしてくれたおかげで、はっきり言って人が余っているんだ。遊ばすのは勿体ないから新たな部門を立ち上げようかと検討中だ。」


「何をだ?」


「フィーディス商会はギラン共和国では名が知れ渡っているが、他国ではそうじゃないからな。他国で売り渡る部門を作ろうと思っている。でだ、エンに国内で行商人を保護者付きでやってもらって業務内容の基準を作って欲しいのだ。」


 そう言うことか、俺にフィーディス商会の顔がきく国内で行商人をやらせ、何かへましても何とかしてやるから、他国で売り渡る基準書的なものを作れということか。


「ああ、構わないが、売り物はどうするんだ?町によって需要が違うはずだ。」


「その辺りもエンが決めてくれればいい。倉庫から必要な物を持って行けばいい。あと、エンが売りたい物も入れてくれて構わない。」


 それは難しいな。仕入れ部門を統括していてよくわかったことだが、町によって売れる物が違うのだ。食料品は一般的に需要はあるのだが、農業が盛んな農村部が近い町だとあまり売れない。季節によっても変わってくる。春になると祝い事が多くなるし、秋になると冬ごもりの準備が始まる。


 困ったな。俺が一人で行商人として回るなら、売上とか気にしなくて済むのだが、フィーディス商会の名が付いて回る今はそうはいかない。


「一回目は試しで行ってみていいか?何事も手探りで行くしか無い。」


「構わん。いらないことを考えずにやってみるといい。」


 ジェームズの執務室を出て、ゼルトを連れて保管倉庫に向かう。


「なぁ。おっさんはどう思う?」


「何がだ?」


「ジェームズの考えだ。俺を自由に商売をさせることについてだ。はっきり言ってこの2年間殆どが雑務をしていた俺がだ。」


「いいと思うが。」


 マジか。なんでそこまで俺に任せられるのか。何がそこまで信頼されるのかわからない。

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