第69話 夢と遊び心と実用性だ!

 一樽10万円を10個購入する。直ぐにイベントリーの中に届いた。本当にこのシステムはどうなっているんだか。

 購入している間に切り落とした筈の5つの首が徐々に再生されていっている。

 俺は酒を一樽だし、入り口の扉を押さえているソルに聞いてみる。あの神輿をお手玉にしていたのなら可能なはず。

 

「ソル。この樽をあの蛇の口に投げ入れられるか?」


「アレと戦うつもりか?まず、扉の外に出ろ!」


「作戦が上手く行けば勝てる。出来るか出来ないのかどっちだ。」


 ソルはため息を吐きながら


「はぁ。本気かよ。何か分からんが、ぶつける事はできる。口の中に入るかは運次第だ。」


 まぁ。妥当な意見だ。


「それじゃ、俺が陽動に動けばいいのか?」


 ルギアがソルに向かって言っているが、余りに近づき過ぎるのも危険だろう。


「それは、敵意を向けられている俺がやる。ルギアも投げられるようなら投げて欲しい。」


 購入した残り9樽をイベントリーから出し、二人に扉の中に入る様に手招きをする。


「こっちに来て投げられるか持って見てくれ、中身が液体だから、気をつけて持ってくれ。」


 ルギアとソルが扉から離れると、重い音を響かせながら扉が閉まった。二人は樽の前に来ると、俺のところに駆け寄って来て


「なんて、勿体ない事をしようとしているんだ!あの、中身は酒だろ?」


 中を開けていないのに酒だとわかるのか?


「なぜ、あんな魔物に酒をやるんだ!魔物にくれてやるなら俺にくれ!」


「あれの倒し方は古来から酒で酔わしてトドメを刺すって決まっているからだ。」


「「そんな倒し方はない!」」


 そこまで強く否定しなくてもいいだろ。


「10樽あるから、失敗せずに8つの口に突っ込めば、2樽余るぞ。」


 そう言うと、二人は目の色を変え、笑い始めた。


「酒は10樽ある。頭は8つあるから2樽余るのは確かだ。くくく。」


「酒はいくらあってもいい。絶対に失敗はしない。ははは。」


 やる気が出たようで良かった・・・のか?若干、怖いのだが。


 身体強化に毒耐性を施す。この間に完全に5つの首が復活した。8つの首が俺に向かって威嚇しているが、首を切らずにどうすべきか。


 取り敢えず、近づいてみるか。数歩近づけば一つの首の喉元が膨らみ始めた。何だ?頭を俺の方に向け口を開けた瞬間に喉元の膨らみが口に移動していったと思ったら、爆発した。

 何かを出そうとしたところに酒樽が突っ込まれたようだ。そのまま一つの首が陥落した。爆発したので、酒が効いたかどうかは不明だな。


 これなら行けそうだ。首が届くか届かないかの範囲を駆けていく。1つの首が俺を噛み付こうと口を開けたとき、2つの首から炎の塊と毒を吐かれたとき・・・石の床が溶けているけど何の毒だ?3つの首が雷の矢と風の刃、氷の塊を・・・その氷絶対口より大きいじゃねぇか!岩の大きさじゃないか!

 酒樽を3つ同時に投げたのか?酒樽は全てオロチの口の中に突っ込まれ、樽は割れ、中の酒はオロチの喉元を通ったようだ。陽気な感じで機嫌が良さそうで何よりだ。

 残りの首は1つだが先程からこいつの動きがおかしい。他の7つの首の後ろにずっと隠れていたヤツだ。もしかして、攻撃属性ではなく回復属性か!

 俺はイベントリーから一本の瓶を取り出しその最後の首に投げつけるが、避けられた。しかし、それでいい。


「『ウィンドウカッター!』」


 最後の首の上で割れる様に投げつけた瓶に向かって風の魔術を放つ。液体がかかった首は即座に倒れた。それはそうだろう。アルコール度数96%のスピタリスだからな。


 これですべての首が陥落した。そして、このアルコールが充満している空間に火を放つとどうなるか。

 ルギアとソルのところに戻り結界を張り


「『ゲヘナの黒炎!』」


「「馬鹿が!」」


 ルギアとソルからの拳骨が直撃するのと、大音量の爆発音が響き、結界が軋み揺れるのとが同時だった。


「イテー!頭が割れるだろうが!」


「酒が充満しているところに火の魔術を放つ馬鹿がどこにいるんだ!」


 ルギア。拳で頭をグリグリしないでほしい。地味に痛い。


「ここに。」


「わかっててやるのは大馬鹿者だ!」


 ソル。背中をバシバシ叩かないで欲しい。絶対に赤くなっているだろ。


「じゃ、ドラゴンみたいに凍らすのと、今回のように燃やすのと、どちらがよかったんだ?凍らすと俺は問題ないが、ルギアとソルは完璧に凍るぞ。」


 ルギアは俺の頬を引っ張りだし


「なぜ、その中間がないんだ?アマツもそうだったが、極端すぎるんだ。」


「え?夢と遊び心と実用性。」


 二人揃ってため息を吐かれた。

 結界の軋む音が無くなった頃、ヤマタノオロチがいた奥の壁が開き、先に進めるようになった。

 あ、何か冒険者をしているって感じがする。こういう感じをもっと始めの方から体験したかった。


 先に進めるようになったので、結界を解き先に進む。ルギアとソルはちゃっかりと余った酒樽を自分の収納袋に入れていた。

 それも商業ギルドで使用する事が決まった鞄に拡張機能を施したものだ。これって一般に売り出されていたか?親衛隊の人から貰ったと・・・。何?親衛隊って。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る