第68話 ヒュドラの頭はいくつだ?

「エン。起きろ。」


 肩をゆすられ起こされた。すっげー嫌な夢をみてしまった。キアナから甘い物を要求され、アルティーナからマタタビを要求され、ヴィーネからアイスを要求されていた。いや、いつものことだった。


「なんだ?まだ、寝ぼけているのか。最下層についたぞ。」


「あ?もう50階層に着いたのか?時間がわからないが、どれぐらい経った?」


「1日ぐらいか?残り2日かけて探すといい。」


 早!一日で50階層突破できるものなのか?


「何度もこのダンジョンには潜っているから、駆け抜ければそんなものだ。」


 どれだけの速さで駆け抜けたんだ?正面は見えなかったが、後ろ向きのジェットコースター並だったのは確かだった。


「多分、そんなに時間はかからないと思う。」


 俺はマップ機能で検索し、碑石の場所を探す。すると赤い大きな丸の近くにピンが落ちた。


「あー。あっちの方向に強い魔物がいるか?」


 ルギアとソルは顔を見合わせ


「この階層は50階層のボスとダンジョン王の嘆きの最終ボスがいるんだが、どちらを攻略してもいい。普通なら50階層のボスであるリッチを倒すところなんだが、エンが指した方向にいるのはこのダンジョンの最終ボスのマスターリッチだ。しかし、エンだからなぁ。マスターリッチかわからんな。」


 なんだよそれは俺が悪いっていうのか。

 取り敢えずそっちの方向に向かう為に一歩踏み出せば、上から尖った岩が落ちて来た。ルギアに抱えられ回避したからなんともなかったが、マジなのか?この岩は流石に死ぬだろ!


 二人して言ったとおりだろって声を揃えて言うな。天津はコレを避けられていたのか?成人して龍人となれば直撃しても岩の方が砕けるだと?と言うことは天津はコレの直撃を受けていたと。

 流石に岩の直撃は嫌だ。


 結局、俺は背負子に収まった。あんな物を10歩毎にくらうのは流石に心が折れる。


 はぁ。本当は初めてのダンジョン攻略を楽しみにしていたんだ。どんなダンジョンなんだろうとか、どんな魔物が出てくるのだろうとか、色々楽しみにしていたのに、蓋を開けてみれば、不運の振り切れによって、自分の足で歩くこともまともに出来なかった。

 そして、殆ど気分が悪いか、寝ていろと言われ寝ていたか。ここがどんなダンジョンなのかも結局わからなかった。まともにダンジョン内を見ることが出来たのが最下層のみ。

 辛い。辛すぎる。運なんて普通でいいんだよ。


 振動と後ろに流れる景色が止まったことから目的地の前まで来たようだ。


「エン。一応着いたのは着いたのだが・・・。」


 ソルが背負子を降ろしながら、話しているが、何か歯切れが悪い。


「どうした?」


 背負子から降りて尋ねるが、ルギアも戸惑っている顔をしている。ルギアが見ている先を見てみると、大きな黒い扉があるのみで、他に何かがあるようには見えない。黒い扉に問題があるのか?


「エン。本気でヤバいかもしれん。」


 ソルも黒い扉を見ながら話す。


「黒い扉に問題があるのか?」


「ああ、本当ならここは黄金の扉なんだ。しかし、この扉は黒だ。」


 ソルの言葉を引き継いで、ルギアが言う。


「この扉は裏50階層の最終ボスの扉だ。裏ダンジョンの最終ボスはヒュドラだ。これは、俺達だけじゃ無理だ。絶対的な力と魔術に対する防御が足りない。あと毒耐性の護符も用意していない。」

 

 グアトールというSランクの冒険者の力と天津の魔力が必要だと言っているのか。確かに獣人は魔力が少ないと聞いたことがあるから、獣人が2人だと戦術が被ってくるのか。

 ヒュドラか確か頭は9つとか100とか言われているんだったか?斬っても再生能力が凄まじいのと、毒も吐くことが。


「ヒュドラの頭はいくつあるんだ?」


「俺たちが倒したのは4つだった。」


 俺が想像したヒュドラとは違うのか。神話では確か最後の頭は不死身だったとあったから、倒すのは無理だよな。4つなら行けるか?


「扉を開けて速攻首を落とせば問題ないよな。」


「4つ同時にか?」


「多分、行けるはず。」


 レイピアを抜き刃先に魔力を纏わす。ルギアとソルに黒い扉を開けてもらい、扉の中に入り、速攻に魔力を高め放つ。


「『絶対真空刃断!』」


 空間をも切り裂く真空の刃が対象物に向かっていったが・・・。まぁ。俺の目には長い首が5つ落ちていっているのが見える。しかし、3つの首が俺を睨み、腹に響くような雄叫びを上げている。合わせると首が8つか・・・。


「ヤマタノオロチじゃねーか!」


 八つの頭に八つの尾を持つ巨大な蛇?一撃で何とかなる魔物じゃないだろ!ヤマタノオロチといえば酒か!樽買いって出来たか?

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