第70話 未来を視た黒髪の少女

 扉の奥に進むと円状の複雑に紋様が施された陣が光を放っている。これは入った入り口に戻る為の陣らしい。

 碑石は何処にあるかとマップ機能で見てみると、目の前にあるらしいのだが、俺の目の前には石の壁しかない。


 何かあるのかと思い、触れて見ると壁が光り出し、鏡の様に俺と背景を映し出した。いや違う。俺の目の前に映し出されているのは黒髪碧目の耳の長いエルフの少女だった。


『ねぇ。これでちゃんと映るの?』


 黒髪の少女は斜め上を見ながら、誰かに確認をしているみたいだが、確認を取っている人物はここには映っていない。


『初めまして黒髪の龍人君。私はアリス。このメッセージは龍人君に向けて送っているわ。

 まぁ。ここまで来れるのは君ぐらいでしょうけど。クスクス。ヤマタノオロチの倒し方はこの世界じゃ知らないでしょう?大量の酒を用意するのも無理でしょ?

 そして、君がここに来ているということは偶然か私の残した言葉を聞いたかどちらかなんでしょう。』


 この最下層のボスを俺の為に用意した?ここに偶然に来る?


『君がここにたどり着く過程は2つあった。まぁ、君にメッセージを残す為に、未来で必ずここに来ることが確定しているこの王の嘆きのダンジョンに決めたのだけど』


 少女が俺を見たような気がしたが、これは記録しているものだから、気のせいだ。


『今の君は一人で瀕死の状態で私の話を聞いているのか、それとも仲間と一緒にここにたどり着き話を聞いているのか。私は後者であることを願うけれどね。』


 え?もしかして一人でダンジョンに来た場合、死にかけでここにいるってことなのか?それはそうかも知れない10歩毎に罠に掛かっていたら瀕死になるだろな。


 少女は空間から白い杖を取り出した。あれは露天商から購入し、ライラの手に渡った杖だ。


『この杖は受け取ったかな?これはルーチェの杖。光魔導術を使うのにちょー便利な杖なの。』


 どう便利なんだ?これは俺が聞くより、受け取ったライラが聞くべきなんじゃないのか?


『どう便利かは使うとわかるから省くけど』


 おい!じゃ、このくだりいらねーだろ。


『大切なものだからきちんと守りなさいよ。』


 ん?杖をか?


『わかんないって顔しているよね。』


 やっぱ見えてんじゃねーか。


『大切なもの。沢山あるでしょ?』


 え?大切なものが沢山ある?なんのことだ?俺の大切なものって何があるんだ?


『はぁ。だから、馬鹿だって何度も言われるのよ。』


 俺を馬鹿と何度も言うのはキアナぐらいだ。失礼だな。


『人の繋がりの事。君の運って笑っちゃうぐらい最悪でしょ?それを抑制するには人との繋がりは大切。

 そうだね。君が仲間とここにいる場合は、ここにたどり着くまでにすごく命拾いしたと思うけど?

 それに、この杖の次の持ち主の子も君が困っていると手を差し伸べて君を助けてくれたでしょ?

 精霊の子がいてくれたおかげで、ホワイトフェニックスとの戦闘を避けられたでしょ?』


 言われればそうなんだが、俺の運がどうとかというよりも、生きれいればそんなこともあるだろうって、言うような事ばかりだ。なぜ、それをわざわざエルフに言われなければならないんだ?


『クスクス。とても不快な表情をしているようね。君には生きて欲しいから忠告をしているの。

 この世界はね。すべてが白き神の手の上で踊らされているの。私は神に踊らされる前に途中退場させられるのだけどね。

 私は神の代行者として、この世界での役目を果たす予定だった。

 だけど、その神はクソだった。面白ければそれでもいいんじゃないとか言ったのよ!あのクソが!』


 少女は地団駄を踏み怒りを顕わにしているが、余程のことがあったのだろう。白き神の信仰から光の神に心を委ねる程の事が。


『はぁ。終わったことだから仕方がないけれども、そこで私は失敗した。どの未来でも私はエルフ共に殺される。だから、私は残された時間が許す限り、未来の者達に言葉を残すことにしたの。神に選ばれての世界からこの世界に降り立った者達に対して言葉を与えることにした。』


 エルフの少女の視線が俺から少しずれたところを見た。

 

『天津にも言葉を与えたのだけど、きっと彼女は死を選んだのでしょうね。生きる未来もあったのだけど、それは彼女にとって悲劇でしかなかったから。』


 そう言って、少女の視線はまた俺を捉えた。


『変革をもたらす君に未来を示そう。人の繋がりを大切にしなさい。これから君は多くの大切なモノが増えて行くことでしょう。抱えきれなくなっても手放さず絶対に守ること。コレ大事。それが、君の護りとなる。

 そして、エルフの王はアークの傀儡だ。あれは危険過ぎる。あの勘違い集団のアークを殺るべきなんだろうけど、まだその時じゃないから手を出さなくていい。でも、王を殺さないと君の未来はない。

 同じ同郷の者として私が出来るのは言葉を贈ることだけだから。ああ、君へのメッセージはこのダンジョンだけだから他のダンジョンに潜っても的はずれなメッセージが流れるだけだからね。それじゃ、さようなら。えにしの名を持つ龍人君。』


 そんな言葉を残してアリスは消えていき、目の前にはただの壁が存在していた。

 なんと言っていいかわからないが、よくわからなかった。未来という未来を教えてくれなかったじゃないか!

 大切なモノが増えていくから全て守れって言われても物理的に無理があるだろ。エルフの王を殺せと言うことはわかったがそれ以外がさっぱりだ。王を殺すか・・・俺にはそこまでする必要があるのかわからんな。


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