第43話 俺は至善者ではない

「報酬が出るのか?」


「ええ、あなたも冒険者だとゼルトから聞きましたので、今回はサーベルマンモスを一頭倒すごとに100万Gガートが支払われます。そして、今回全てのサーベルマンモスを引かせたことも考慮しまして800万Gガートを支払います。そして、これがサーベルマンモスの魔石です。」


 そう言いながらノリスは2つの人の頭程の魔石を出してきた。流石にあのサーベルマンモスの大きさだとこれほどの大きさになるのか。

 それを受け取り、ウサギのリュックに入れるフリをしながらイベントリーに入れておく。


「う、うさぎ?」


 ノリスに疑問系で問われたが俺は無視だ。俺は無視をしたのに


「おう、これはな。荷馬車の代わりの拡張収納付きのリュックだ。今、試験運用中だ。」


 ゼルト、説明はしなくていい。


「うさぎのリュックで?」


 ノリスしつこいぞ。


「うさぎはなオプションだ。」


「違う!オッサン適当なことをいうな!荷物を取られないようなリュックの形がこれしかなかったからだ!俺は断じて了承はしていない。ジェームズの業務命令で仕方がなく背負っているだけだ!」


「その白い猫もジェームズの旦那がつけたのですか?」


 そう、アルティーナが付けた白い猫のぬいぐるみがウサギのリュックについているのだ。


「これはアルティーナが無理やり付けたヤツだ。嫌がらせか何かだろ。」


 ノリスとゼルトは顔を見合わせ、ゼルトは肩をすくめている。なんだ?その反応は。


「取り敢えず金はオッサンに預けておいてくれ、俺は少し外に出てくる。」


「おい、エン。待て。」


 ゼルトの声を背中で聞き流しながら、ギルドの外にでた。すっかり暗くなってしまった。あまりも書類に埋め尽くされた部屋に苛立ってしまって、やってしまった。何をしているんだか。


 夜の街をふらふらと歩いて行く。なぜか段々と肌寒くなってきた流石に最北端の街だなって寒すぎないか?

 目の前に凍った池が現れた。どこかで見た景色に思えたが暗くてよくわからん。嫌な予感がするので見なかったことにしよう。


 街の端まで来てしまった。この時間になると外壁の門は閉まっており出入りが出来ないようになっている。仕方がない戻るかと思い踵を返そうとした瞬間、後ろに体が引っ張られた。何者かがウサギのリュックを掴んでいるようだ。身体強化を使い、体を捩じり相手を引き剥がす。相手は俺が抵抗するとは思っていなかったのか、逆に引っ張られ倒れたようだ。倒れた相手を見てみると、俺と同じぐらいの・・・すまん、嘘をついた。実年齢が俺と同じぐらいの少年が倒れていた。


「おい、人の荷物を取ろうってどういうことだ。」


「男?」


 そうか、フードをかぶっていてわからなかったのかって、女の子の荷物を奪い取ろうしていたのか!


「もしかして、自分より弱いヤツから荷物を奪い取ろうとしていたのか!お前、最悪だな。」


「荷物の中身じゃなくて、そのウサギだ。」


 少年は否定してくるが、どちらにしても物を取ろうとしたことには変わらない。


「どちらにしろ、物を盗もうとしたことには違いない。」


 少年は唇を噛みしめる。なんでお前がそんなに悔しそうな顔をするんだ。悪いのはお前だろ。


「言っておくがこれは特殊なリュックだ。取られても持ち主の元に戻るようになっている。お前が盗もうが、それは無駄な行為だ。物が欲しいのなら働いて買えばいい。」


「まだ、11歳だから働けない。」


 お、俺より年下だった。年下の方が断然大きいだなんて・・・べ、別に悔しくなんかない。


「働けないからと言って俺は物やるような至善者ではない。他を当たれ。じゃあな。」


 俺は少年に背を向けもと来た道を戻っていく。

 なぜ、このリュックが欲しかったのかは知らないが、見た感じそれなりの衣服を身に着けていた事から孤児ではないように思える。首都の孤児院にいた俺達の衣服は古着の古着で着れなくなる一歩手前の物がまわされるから直ぐに孤児だとわかってしまう。

 しかし、先程の少年の衣服は草臥れてはいたが、俺からみたら綺麗なものだった。と言うことは、親がいるが必要最低限のことにしかお金が使えない環境なのかもしれない。

 そう言えば昔、同僚が子供の扶養手当がどうこう言っていたな。天津はその制度は作ったのかな。気になるな。ソルは知っているだろうか。


「子供に支払う金?」


 冒険者ギルドまで戻って、なぜか椅子に縄で縛られた状態で書類にサインをしているソルに聞いてみた。


「ああ、ソルは天津様と一緒にいたんだろ?子供を扶養する手当は出されているのか?ん?その前に戸籍は存在するのか?」


「あー?この国に住むためには戸籍が必要だ。子供が産まれたら届けを役所に出すようになっているが。子供に支払う金かー。必要か?」


「皆、同じ賃金が発生するのであれば問題ないが、そうではないだろ?そうするとだな生活に行き詰る家族も出てくるはずだ・・・やばい。聞かなかったことにしてくれ。」


 これはダメだ。生活保護の問題になってきた。それはそれで付随する事柄が大きすぎる。


「いやいや。面白い考え方だ。」


 ソルはぐるぐる巻になった縄を引きちぎり立ち上がった。縄の意味がない。


「やっぱり、今直ぐに首都に・・・ぐっ。」


「この書類の山を片付けてから行ってください。」


 ソルはノリスに床に沈められていた。あれ?ノリスってこの部屋の中にいたか?


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