第48話 終わったぞ!

 終わった。今度こそ俺はやり遂げた。

 昼時になると、ルギアとソルがやって来て、昼食を用意させられ、キアナにはプリンやパフェを用意させられ、お茶の時間だと言ってフェーラプティスがお茶を入れ始め、飲み切るまで居座り、アルティーナには仕事の時間は終わったからと宿舎の食堂に連行された。

 健全な生活スタイルのように思えるが、なぜに俺が大人二人分の昼食を用意しなければならないのだ。キアナもそれに便乗し最後にデザートまで要求してくる。おかしいだろ!


 お前らの邪魔が入らなければもう少し早く終わったはずだ。もう、一刻ぐらい残業をしても食堂の開いている時間には余裕で間に合う。そうすれば、この作業に一ヶ月もかからなかったはずだ。もう、夏の季節が始まろうとしている。ここに見習いとして来て1年が経とうとしているのに、俺は何をやっているんだ。店の内容なんて表面を撫でるぐらいしかわかっていないぞ。


「エン。終わったなら、ヴィーネはアイスが欲しいの。」


 ヴィーネ、お前はいつまでここに居座るつもりだ。さっさと帰れ。そして、俺は出来た資料を持って、ジェームズの執務室に行く。


「ん。やっとできたのか。」


「毎日、邪魔が入らなければ、もっと早く終わっていた。これが資料だ。この様に分ければいけるはずだ。そして、俺はまとまった休みが欲しい。流石に疲れた。」


「ふむ。」


 ジェームズはうなりながら、資料に目を通している。


「来月からこの仕様で行ってみよう。しかし、この発注書はよくできているな。主要項目が書いてあり、そこに必要量を書いていくだけになっているなんて、楽でいいな。後は、これを大量に複写をして、各支店に送ればいいだけか。」


 発注書は支店で発注されることの多い30項目を始めっから印字してあるようにしてあり、箱単位を記入すればいいだけにした。あとは、欄外に項目欄を設け30項目以外を記入するようにした。これを、複写の魔術で大量に作ればいい。


「エン。これでやってみよう。3日後に南方面の支店に商品の運搬とこの仕様の説明に行ってくれ。」


「・・・ん?ジェームズそれはどういうことだ?」


「ゼルトを保護者として付けるから、商品の発注方法が変わる事を説明をしに行ってくれ。」


「ちょっと待て、ジェームズ。もしかして、俺は全ての支店に説明をしに行かなければならないとか言わなよな。」


「当たり前じゃないか。一番分かっているのが、エンだからな。」


「ジェームズ、俺一人ではいくらなんでも無理があるぞ。南ルートで18店舗、北ルートで15店舗、西ルートで7店舗、東ルートで10店舗だ。商品の運搬と説明をしながら、一ヶ月以内で周りきれるはずはないだろ。」


「大丈夫だ。エンが言っていた支店ごとの商品の仕分け作業をしたものを、収納鞄に入れるようになったら、運搬業務をしている者から随分と楽になったと言われたぞ。20日かかっていた工程が半分以下だ。」


 いや、説明して理解をしてもらえることが抜けている。ジェームズを説得し、なんとか各ルートで仕分け部門から説明要員を付けることを了承させた。いくらなんでも、俺を扱き使い過ぎだ。


 そして、2日間の休みをもらった俺は誰もいない森の浅瀬にいた。薬草採取でよく来ていたスライムしかいない場所だ。

 人目のない場所でゆっくりできる時がなく、そのままイベントリーの肥やしになっていたサーベルマンモスの魔石を取り出し、ネットを開き魔石をよく分からない空間に落とし入れる。


 『サーベルマンモスの魔石A=5000000円になります。課金しますか?』


 500万か。ブラックウルフより大きかったからてっきり課金される金額も大きくなるかと思っていたが違うようだ。2つの魔石を課金し合計1千万円の加算となった。これで当分の間は大丈夫だろう。


 しかし、俺はここで何をやっているんだか。社畜をしていたときと変わらないような気がする。いや。邪魔が入る分もっと悪いか。地面に横たわりウトウトとし始めたところで、頭上から声が降ってきた。


「エン?」


 ふと、目を開けるとライラがいた。最後に教会で会ったのが最後か。起き上がり立ち上がる・・・見上げる角度がおかしい。ライラはそれ程見上げなくても良かったはずだ。


「ライラ、背が伸びた?」


「うん。ここ半年程で伸びたかな。エンは変わらないね。」


 ライラ。笑顔で言われても俺のハートにはグサグサ突き刺さっているぞ。俺の成長期はこれからだ!これから伸びるはずだ。


「ライラはこんなところでどうしたんだ?」


「薬草採取。傷薬を作る事が今の仕事なの。まだまだ雑用程度だけど、絶対に回復薬を任せてもらえるぐらいに頑張るんだから。」


「ライラは凄いな。それに比べて俺はなにやってるんだか。はぁ。」


「エン。疲れてる?私が元気になるおまじないをかけてあげようか?私の元気になるおまじないは良く効くって褒められているんだ。」


「へー。じゃ、お願いしようか。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る