第47話 壊れますよ

 終わった、やっと終わった。2ヶ月かけて終わらせた。俺はやりきった。全部門、全商品の仕入れ記録の整理が・・・。

 そうなのだ、仕入れ記録の整理が終わっただけなのだ。これから、何個単位で仕入れするかの基準を作らなければならないのだ。

 道は険しくほど遠い。俺は椅子の背もたれにもたれかかり、伸びをする。今日は、達成感がいっぱいでこれ以上やる気が起きないな。少し、外をプラプラするか。


 誰かに捕まる前に部屋を出ていくかとドアを開けた瞬間、腹にドシリという衝撃が。



「エン。ヴィーネはやりきったの。褒めて欲しいの。」


 氷の精霊であるヴィーネの襲撃を受けた。


「誰ですか!廊下に水滴を落として行った人は!」


 掃除道具を抱えたフェーラプティスが現れた。

 俺は、ヴィーネを引き剥がし、部屋のドアを閉める。今日は続きをしよう。外は危険がいっぱいだ。氷漬けさせる危険とホラーは回避しなけれならない。


 ドンドンドンとドアが叩かれる。無視だ。無視。


「エン。開けるの。」


「エンさん。精霊のこの方と知り合いですか?」


 無心で書類と向き合う。


「エン。アイスをくれないのなら、凍っちゃうの。」


 何を凍らす気だ。


「エンさん。ここを開けないと・・・壊れますよ。」


 何がだ!俺はドアを開け


「お前ら怖すぎなんだよ。ヴィーネ。何でも凍らせようとするな。アイスをやるからさっさと帰れ。フェーラプティス。精霊とは北の辺境都市で知り合った以上。業務に戻るように。」


 そう言って再びドアを閉める。

 しかし、再びドアが叩かれ氷漬けとホラーが協演する。俺の精神が折れた。


「お前たちは何なんだ。初対面じゃないのか?息が合いすぎじゃないのか?」


 二人は顔を見合わせ


「フェーラの作る服はかわいいから好きなの。」


「ヴィーネとはお茶飲み友達です。」


 昔からの知り合いのようだが、ヴィーネは200年寝ていてもお茶飲み友達なのか?


 ヴィーネは書類の山が片付いた部屋で、先程渡したアイスを食べだし、フェーラプティスはお茶を3人分用意して、この部屋で飲みだした。この部屋で、くつろがないでほしい。


「エン。アイスがなくなったの。ヴィーネはいっぱい頑張ったからもっとくれてもいいと思うの。」


 アイスの催促をされた。一体、何を頑張ったんだ?


「何をしたのかわからないから、アイスはあげられないなぁ。」


「うー。ヴィーネは頑張ったの。今までで一番頑張ったの。」


 あの後、真っ先にコートドランの屋敷に戻り氷漬けにしたらしい。そして、コートドランとその部下数人を追い立てながら、東に向かって行った。途中で、サーベルマンモスとも合流し、逃亡不可能な布陣を布いて国外まで追い立てたということだ。

 なんと恐ろしい。精霊に氷漬けにされながら、巨大なサーベルマンモスに追いかけられるなんて、恐怖の以外の何ものでもない。


 国外であるマルス帝国に追い出しても、スキをみてギラン共和国に入って来ようとしてきたので、2ヶ月という期間の張り込みをしたということだ。そして、後はサーベルマンモスに任せて俺にアイスをもらうために来たらしい。


 ただ単に飽きてアイスをせびりに来たんじゃないだろうな。まぁ。ゼルトのオッサンが嫌っているコートドランを追い出したという約束は守ったのだから、大きめのアイスでも出すか。1kg入のバニラアイスをヴィーネの前にドンっと出した。ヴィーネの目が輝いて


「これ、全部ヴィーネが食べてもいいの?食べていいよね。ダメだって言ってもヴィーネのなの。」


 そう言って、ヴィーネはバニラアイスを抱え込んで食べ始めた。お腹を壊さないといいな。


「エンさん。私も頑張っているので、そろそろ紅茶の茶葉が欲しいです。」


「俺にはフェーラプティスが頑張っているかはわからん。それを評価をするのはジェームズかフェーラプティスの上司だ。俺ではない。」


「ヴィーネは良くて、私はダメなのですか?」


 ん?部屋が一瞬暗くなったような気がしたが気のせいか。


「ヴィーネはここの従業員じゃない。国境にサーベルマンモスがいることは間違いがないから約束は守ったと判断したのだ。しかし、フェーラプティスの場合はワイバーンの革代を支払うということだった。俺はフェーラプティスの働きに評価を付ける立場ではないし、そもそもワイバーンの革代がいくらかもしらない。だから・・・。」


 なんか、フェーラプティスから黒いものが出ていないか?従業員の制服が黒く・・・制服すら黒くなるのか!


「所詮私など、物を作る以外は掃除ぐらいしか役にたちませんよ。お料理も専門の方がいらっしゃいますし、洗濯は各自でしていらっしゃいますし、私など、店の掃除しか役にたちませんよ。」


 なぜ、俺がフェーラプティスの仕事を評価することが出来ないと言ったことが、掃除しかできないと落ち込むことになるんだ。


「じゃ、従業員の休憩にお茶でも入れてやるといい。」


 俺がそう言うとフェーラプティスはいつもどおりの笑顔に戻り


「はい。エンさんのお茶汲み係になります。」


 ちがーう!



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