第20話 借金はダメ。でも、食べたい。
「これでもう一度、レシピ通りに作り直してくれ。どの行程も飛ばさずにレシピ通りにだ。」
エンディは25㎏の業務用の小麦粉を担ぎ部屋を出て行った。
俺は席に戻る。先程からジェームズの視線が痛い。
「エン。さっきは何をしていた?」
「なんのことだ?」
「いや、何でもない。それで精白というのは?」
「はぁ。それ説明しなきゃダメか?」
「それをしないとこれが作れないのだろ?」
缶に入ったクッキーを指しながらジェームズが言う。
「はっきり言って面倒くさい。今使っている、小麦は脱穀したら、それを粉にしているだろ?それが悪いわけじゃないが、どうしても食感が落ちる。その原因が小麦の表皮や不純物だ。それを取り除く行程が実に面倒くさい。時間があるときに書き出して置くから今度にして欲しい。」
「お前のその知識はどこのから手に入れた?」
やはり、そう言って来るとは思ったよ。ジェームズの目が俺の真髄まで見透そうしているかのようだ。
「何処から手に入れたねぇ。」
本当になんでこの世界にいるのか俺が聞きたいぐらいだ。
「ミレーテの商業ギルドマスターから頼まれた時に君のことを調べさせてもらったが、首都の孤児院出身としかわからなかった。それもあまり境遇が良くなかったということも、ただ、それだけだった。そんな君がなぜこのような知識を持っている?」
俺はさっきジェームズから受け取ったお札を取り出した。
「この1万
「エンってバカ?1万
キアナがそういうがジェームズは俺が言いたいことがわかったみたいだ。
「エンはその1万
「何が謎かは知らないが、ここに描かれている人物が誰かは知っている。しかし、この国の礎を作った人物は誰か知らない。これが俺の答えだ。これ以上は答える気はない。」
「エンはアマツ様と同じということか。」
あまつ?天津か。天津、精白ぐらい教えておけよ!
「それはどうでもいい。俺はこれからどうすればいいのか?」
横から札束が出てきた。一体なんだ?と目線を向ければさっきから存在感が無くなっていた、ルギアからだった。
「なんだ?これは。ルギアのオッサン。」
「うまい物が食いたい。」
だからなんだんだ?
「具体的には?」
「スキヤキ。カレーライス。キツネウドン。」
は?片言の日本語がいきなり出てきた。
「どっから、そんなメニューがでてきたんだ?」
「アマツが死ぬまでに食べたいと言っていたものだ。」
「アマツ様という人は生きているのか?」
「いや、10年前に亡くなった。」
「あれ?この国ができてどれくらいになる?」
「200年程か。元々、エルフ神聖王国が狂王の戦いに負けて分裂してできた国だからな。」
200年?
「200年生きたということか?獣人族としては短いのか?普通は300年は生きると聞いたが。」
「アマツは珍しい種族で水龍の種族だった。500年程生きて、その後200年この国の礎を築いたが・・・。で、うまい物は出てくるのか?」
700年?水龍族ならもっと生きそうな気がするが、10年前と言えば、ルギアがいた『四獣の剣』が活動していたと言う時期と重なる。何にかあったのだろうか。
「今すぐは無理だ。そんなおかしな組み合わせで、食べる食べ物じゃない。単品で食べろ。」
「じゃ、今晩の夕食はスキヤキで、食べに来るから。」
そう言って、ルギアのオッサンは部屋を出ていった。そして、またしても目の前に札束が・・・。ジェームズお前もか。
「俺の分も用意してくれ。」
「ずるいです。私も食べたいです。大旦那様。私の分、奢ってください。」
「お金なら貸しますよ。」
「う゛。借金はダメ。でも、食べたい。食べたい。」
キアナは借金と食欲の間で揺らめいているが、食欲の方が勝っているらしい。
「キアナ。食べすぎは太るぞ。さっきもクッキー食べていたよな。」
「キー!美味しいものは正義です。大旦那様。お金貸してください。」
こうやて、借金が増えて行くんだろうな。
そして、これからの予定を聞けば、本当なら昼過ぎにはここを発って首都の本店に向かうはずだったが、すき焼きのために予定を変えて明日の出発にしたらしい。ジェームズそれでいいのか?
なので今日は文字勉強後、すき焼きの準備をしてくれと言われてしまった。ジェームズはすき焼きを強調して言っていたので、最優先事項なんだろう。
文字を教えてくれるのはキアナだったが、教えるのだからキャラメルを寄越せと言ってきた、たちの悪いカツアゲだ。代わりに飴を渡してやったら目を輝かせながら食べていた。そのまま食べ続けると、豚になりそうだなっと言ったら殴られた。
絶対に今日は甘いもの食べすぎだろ。
ジェームズside
とても懐かしい名前が出てきた。目を閉じれば昨日のことのように思い出される名前が。
狂王との戦に乗じて我々を導きシャーレン精霊王国より独立し、このギラン共和国を作り上げたアマツ様。
確かに、あの方はご自身のことはあまりお話にならなかった。いつも語るのは、夢物語のような国の姿を語るのだ。身分差のない国。最低限生きることを保証してくれる国。王ではなく選ばれた民が君主となり国政をする国。理想を語っているようで、まるで、どこかにお手本の国があるように、事を進めていくアマツ様。
そして、彼の少年はアマツ様が言葉を濁した、あの1万
では、どうして知っているのか。きっと彼はアマツ様と同じ物を見ることができるのであろう。
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