第104話 転移門

 案内された部屋に入ると、縄で椅子に縛られて書類の山に埋もれているソルと次々書類を渡しているノリスがいた。

 これは、ソルを置いて戻ったほうがいいのだろうか。


「お!エン、迎えに来てくれたのか。」


 迎えには来たが、ノリスの視線が鋭くソルを突き刺している。うん。置いて戻ろう。


「ノリス。エンが迎えに来たから、ミレーテに帰るからな。」


「そうですか。では、この書類の山はミレーテのギルドに送っておきますね。」


「ああ、いいぞ。ルギアとエンがやってくれるはずだ。」


 おい、なぜ俺がそこに含まれてくるんだ。ただでさえ書類が溜まっているあの汚部屋に更に書類が増えるなんて駄目だろ。


「ソル。ここで、その書類を片付けてからしろ。俺は先に戻る。」


「「それは駄目だ!」」


 ソルとゼルトからダメ出しをされた。何故だ!


「エン、お前を一人にしておくと、とんでもないことをしてそうだから駄目だ。」


「俺じゃ対処できんと前から言っているよな。」


 おぅ。俺はそこまで二人に言われるほど酷くないはずだ。しかし、早くここから立ち去りたい。


「でもな、早くここを立ちたいんだ。ヤバい系のヤツに目を付けられてしまった。」


 俺がそう言うとソルは縄を引きちぎり立ち上がって、俺のところまで来た。そして、俺を荷持の様に抱え上げ


「ノリス、緊急事態のようだからミレーテに帰る。書類はお前がやっておいてくれ。」


 そう言いながら、ギルドマスターの部屋を出ていった。おい、ソル。それで本当にいいのか!って俺は荷物じゃない!


「で、何に目をつけられたんだ?」


 冒険者ギルドを出たソルから聞かれた。だから、あったことをそのまま伝えることにする。全ての話を聞いたソルの感想が


「やっぱ、あれは近寄ったらいけないヤツだったか。」


 だった。そうだよな。遠目からでも怪しいヤツだったもんな。


「それじゃ。直ぐにここを去ろう。」


 そう言ってソルは街の中心へ向かって行く。おい、何処に行っているんだ。街の外へ行けよ。


「ソル、方向が逆だ。外門は後ろの方向だぞ。」


「わかっている。エン、転移門を使ってミレーテに帰ろう。」


 転移門?・・・どこかで聞いたような言葉だな。俺が首を捻って考えているとソルが可笑しそうに笑って言う。


「くくくっ。ルギアから長の血族の証をもらったときに聞いたはずだぞ。幾度か転移門を使ったことはあるが、くくくっ。毎回アマツが面白い反応をしていたな。」


 ああ、豹獣人の長の血族の証。確かに転移門を使う為に必要だと言っていたな。それから天津が面白い反応?一体なにがあるんだ?


 連れて来られたのは役場と思われる建物だった。ここに転移門があるのか?ソルは建物の中にサクサクと入っていき、人が多く行き交うところには行かず、建物の端にある廊下が奥まで続いている場所を進んでいく。そこは同じような扉が並んでおり、その一つの部屋に勝手に入っていった。

 いいのだろうか。転移門ってそれなりに重要じゃないのか?


 入った部屋は石の床と石の壁に囲まれた何も無いガランとした部屋だった。いや、部屋の端に魔石が置いてあるそれだけの部屋だった。


「何もないな。本当にここが転移門なのか?」


 疑ってしまうほど門らしき物がない。


「門って言っているが、この部屋自体が転移門だ。この国が出来る以前からあった転移門に合わせて、この建物と街を作ったんだ。」


 おぅ。転移門ありきの街だったのか。そんな重要な施設を簡単に出入り出来るって問題じゃないのだろうか。 


「でもさ、誰でも出入り出来るって駄目じゃないのか?」


「大丈夫。大丈夫。使えるヤツは限られているから。それ以外の奴らにしたら、ただの何もない空間の部屋に過ぎん。」


 ああそうか。確か、証が必要だったな。そして、ソルに抱えられたまま俺は白い魔石がある前まで連れて来られた。大きな魔石だ。人の頭部ほどの大きさがあるんじゃないのだろうか。


「エン。この魔石の前に証をかざしてみろ。」


 ソルにそう言われ、冒険者ギルドのタグに付けられた白い板状の魔石を大きな白い魔石の前にかざしてみた。すると、魔石同士がほのかに光った。まるで、共鳴しているようだ。すると、単調な音声が聞こえてきた。


『認識しました。転移門の使用は可能です。中央に待機してください。』


 その音声の指示のとおりソルは部屋の中央に立つ。その横にはゼルトが立っている。しかし、なぜ俺は抱えられたままなんだ?


 少し待つと部屋の中央が円状に光りだした。これで、転移が可能になったのだろうか。 


「エン。あの魔石が光るまで魔力を下に向かって注ぎ込め。」


 ん?魔力を下に?ソルに言われるまま、下に向かって魔力を送ってみる。しかし、魔石が光る兆しは全く見られない?首を傾げているとソルが俺の頭をペシペシ叩きながら言った。


「エン、全然足りないぞ。もっとだ!」


 あ?もっとだ?ルギアが使うなと言った『絶対零度』を発動出来る魔力量は込めたぞ!ただの転移で一体どれだけの魔力量を消費するつもりだ!

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