第116話 絞め殺す気だったのか

「マスター。こんな小さな子をいじめちゃーだめですよー」


『いじめていない。黒龍が我の事を劣っていると言ったからだ』


 そんな会話が近くから聞こえ、意識が浮上した。俺は劣ってるって言っていないし、小さな子でもない!


「さっきの話は興味ありますよねー。あたし外にでられますぅー?」


『お前が外に出れば理性の欠片もない本能で暴れる魔物になり下がるだけだ。』


 え?そうなのか!もしかして、ゲームとか漫画によく出てくるダンジョンからのスタンピードって、そんな感じの魔物が外に排出されるって事なのか。

 それともそれはこの世界だけ?もしくは、ここのダンジョンだけに適用されることなのか?


 しかし、先程から体を締め付けるような圧迫感はなんだ?体が全く動かせない。


「えー。一度街に出たら、アマツに怒られたしー。街じゃなかったら怒られないと思うんですよー」


 なんか締め付けが強くなった気がする。息苦しくなってきた。


『それだと、人に討伐されるぞ』


「ぬぅー。ダンジョンの中も良いんだけどぉー。一度だけアマツが連れて行ってくれた庭で、また日向ぼっこと言うものをしたいのですぅー!」


 ギリギリと体を締め付ける力が強くなってきて息が!


「苦しい!いい加減にしろ!」


 目を開けると白いなめらかな鱗が視界いっぱいに広がっていた。なんだこれは?


「ごめんね」


 その声と共に苦しさから解放された。なめらがな鱗の何かが動いていき、視界が開けてきた。

 目の前のにはユールクスとおはぎを持ってきてくれたナーガの女性がいた。どうやら俺はナーガの女性の尾に巻き付かれていたようだ。それは苦しくなるはずだ。それとも絞め殺す気だったのか。


 俺は起き上がり、ユールクスを見る。


「あのな、俺は別にユールクスが劣っていると言っていない。人には向き不向きがあるからな。俺に料理を作れと言われても上手い料理を作れないのと同じだ」


『なんだ。聞いていたのか』


「聞こえただけだ」


 しかし、エルトのダンジョンか。行こうと思えば一日で行けるよな。休みは残り3日あるから、行こうと思えば行けるが、ダンジョンマスターと連絡が取れるかどうかわからないな。


「あ、そうだ。お米分けてくれないか?今、食堂の改善をしているんだが、慣れた食材がある方がやりやすい」


 パンもいいんだが、日持ちをさせるためか水分をこれでもかと抜いたパンなのだ。それも全粒粉・・・もそもそ感が半端ない。米があるなら昔ながらの水車で精米する方法がとれるだろう。


『米か余るほどあるから、好きなだけ持って行くといい』


 天津が居なくなってから消費されなくなったのだろう。10年分溜まっていたりしないだろな・・・せめて新米とは言わないがせめて古米ぐらいをくれないだろうか。


「エルトに行って聞いてみるが、ダンジョンマスターと連絡がとれるかがわからん。あと米はいつくれる?早いほうがいいのだが」


「お米はあたしが持って行ってあげるよ。倉庫に置いておけばいいよね」


「ん?」


 倉庫に持っていく?ナーガの女性が?どういうことだ?


『アマツが使っていた倉庫は今は別の者が使っている』


 ああ、ダンジョン産のお米を受け取る為に天津が倉庫を借りていたのか。だから以前はナーガの女性が堂々と持っていけたということか。


「え?そうなんですかー?じゃどうしましょう?あ!ここの上にも倉庫ありましたよね!そこに持っていけば『駄目だ』えー」


 フィーディス商会の倉庫は人の出入りがあるから、それはユールクスにダメ出しされるよな。


「ここに持ってきてくれれば、俺がそのまま持って帰る」


「じゃ、待ってて」


 そう言ってナーガの女性は消えていった。これからソルのところに寄って相談してみるか。





─冒険者ギルドにて─


「エルトに行くだと?」


 相変わらずの汚部屋の中で、ルギアとソルが書類を捌いていた。その中でソルが書類の隙間から顔を出して言ってきた。


「ああ」


「次の行商のときじゃ駄目なのか?」


 確かにその時でもいいのかもしれないが、早い方がいいような気がする。俺はエルフという者達がどのような者なのか昨年の事だけしか知らないが、良くない印象しかない。

 あ、アイリスもエルフだが、アイリスの事はそんな風に思っていないぞ。


「ちょっとダンジョンマスターに聞きたい事があるんだ。休みの間に行っておきたいんだ」


「西のダンジョン・・・」


 ルギアがポソリと呟いた。ああ、天津がアリスの予言を見たところだったな。もう一度行きたいのだろうか。しかし、裏ダンジョンっと言っていたよな。


「ルギア。裏ダンジョンに行きたいのか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る