第54話 ちっちゃいルギア様

 それからの旅は順調に進んで行った。3日目には一番南側の支店にたどりつき、帰りは東側を通って支店を廻りながら首都に戻るルートを通って帰るのだが、5日目に問題が発生してしまった。

 その問題はエルフだった。行った先の支店でエルフからの強襲・・・いや、恐喝にあっていた。

 支店の周りに人だかりができており、野次馬をしている人に聞いてみれば、どうやら店に置いてある食料を全部よこせと言ってきたそうだ。それも、金を払うわけではなく、献上をしろと言ったそうだ。


 は?欲しいなら金ぐらい払え!各国にある教会からお布施と言って集めている金は何処に消えた!あるならそれを使え!

 え?王の誕生祭のためだからタダでよこせって?イヤイヤイヤ。そもそも国が違う。シャーレン精霊王国内で集めろよ。


 俺が人垣を乗り越えようと歩み出せば、頭をガシリと掴まれた。


「エン。俺の言ったこと覚えているよな。」


 ソルに頭を掴まれたようだ。頭を掴まれたせいで誰かは確認できないが、やはり、エルフに突っかかるのはダメらしい。


「中にいる奴らは、それなりの地位にいる奴らだ。この辺りの教会にいるエルフより濃い色を持っている。絶対に手を出すな。」


「わかった。」


 野次馬に混じって見ていたら、エルフが3人店から出てきた。確かに深い海の色と思う程の青い髪だったり、夜の森を思わせる程の緑の髪の色をもっていた。

 そいつらは何も言わず、それが当然だと言わんばかりに転移して消えて行った。

 やっぱり、一発殴っても良かったんじゃないだろうか。


 店を囲んでいた野次馬も解散し、俺達は店の中に入っていった。その中は、本当に食料だけが全部なかった。何一つ残されてなかった。

 これって、ここに住んでいる人たちの事を考えていないよな。この町は小さいながらも中核都市と辺境都市を結ぶ重要な町だ。だから、それなりの人たちが住んでいる。当然ながら教会もあるし、役場もある。子供が学ぶための学舎もある。そんな町の大手老舗であるフィーディス商会の商品をごっそり持っていくなんてどれだけエルフというやつは鬼畜なんだ。

 店の物がごっそりなくなってしまったことで、従業員も呆然と立ちすくんでいた。


「ゼルトのオッサン。ここの後は残り2店舗だったよな。そこの分の商品を回すのはダメか?他の2店舗は本店に近いから今日中に首都に戻れば問題ないんじゃないか?」


「ああ、そうだな。おい、お前らボーとしている暇はないぞ。商品は持ってきたから、早く店に並べろ。」


「ゼ、ゼルトさん!いつからここに。いいえ、助かりました。本当にどうしようかと。」


 そう言いながら、一人の女性がゼルトの元に涙目で来た。多分、この支店の店長だろうが、俺の目の錯覚ではないなら白い猫耳が見える。ジェームズの血族がここの支店に配属されているのか?


「エルフ共が来ているときからだ。悪いな助けに行かなくて。」


「はぁ。いいのです。私どもでは、エルフに敵いませんから、グアトール様でも隣にいれば、強気になれるのでしょうがね。」


 グアトール?Sランクの修行に出た冒険者か、そんなに凄いやつだったのか。


「エン。商品を出してやれ。」


 ゼルトに言われ、俺は猫型のリュックを降ろしていると


「エン?お父様が可愛がっているという噂のエン君?」


 お父様って誰だ!可愛がってもらった記憶なんてないぞ!


「アルティーナがラブラブのエン君?」


 ラブラブ?なんだそれは。マタタビしか要求されていないぞ。


「おう、そうだぞ。」


 ゼルトのオッサン、なぜそこを肯定するんだ。


「で、何処に出せばいいんだ?」


 猫形のリュックを前で抱えていると


「まぁ。もしかして、その白猫はアルティーナからかしら?でも、隣の青い鳥は誰からかしら?」


「アルティーナとキアナが勝手に付けたんだ!で、何処に商品を出せばいいんだ?」


 白猫獣人の女性は考え込みながら


「何もないからここでいいわ。キアナ、キアナ・・・もしかしてジィの孫かしら?」


「おう、ゴルジィの孫のキアナだ。キアナもラブラブだ。」


 誰だよ。ゴルジィって。そもそもキアナもお菓子しか要求されていないぞ。もしかして、ラブラブの意味が俺と獣人と違うのか?もしかして、何か要求を突きつけることがラブラブの意味なのか?


「く。これはアルティーナにはなかなか手強いライバルね。」


「ヴィーネもエンにラブラブなの。」


 商品を出しているところにヴィーネが突進をかけてきた。


「グフッ。」


 その衝撃でフードとキャスケットが外れてしまった。


「何をするんだ!ヴィーネ!今は仕事中だって見てわからないのか。仕事中は邪魔をしないって約束したよな。」


「した。でも、ヴィーネもエンとラブラブなのを分かってほしかったの!」


 ヴィーネ。お前からもアイスしか要求されていない。やっぱり、ラブラブの意味が違うようだ。


「ルギア様。」

「ルギア様だ。」

「ちっちゃいルギア様。」


 誰だ!ちっちゃいって言ったヤツは!


「俺はルギアじゃねぇ!血縁も否定する!」


「エン。くくく。豹耳付けてるの忘れているだろ?ちっちゃいルギア。マジ、ウケる。アハハハ。」


 あ、忘れていた。ソル、腹を抱えて笑い過ぎだ。


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