第96話 料理スキルを持つ者とは

 食堂の件は本日のスープという感じで、スープの味を変えることから始めることにした。全部を一斉に変更をすると、とんでもない事になるのがわかっているからだ。勿論、被害を被るのは俺だ。


 1週間で7種類の味を回していけばいいのだが、如何せん簡単だしの素が無いのが痛い。いや、いけるはずだ!この世界には魔法があるのだ。フリーズドライも容易にできるはずだ。


 あと3日間でなんとかしてやると意気込み、翌日、朝から厨房に立っているガジェフの後ろに付いて、作っている姿を見ていた。

 あ、うん。俺、今までコレを食べていたのか。乱雑に切られた野菜と肉を水の中にぶち込み、沸騰したら塩を入れて完成だ!


 沸騰して直ぐに火から降ろすなよ。全然煮込んでないだろ。だから、野菜が半生で、肉が微妙にあやしかったんだよ。一度、生じゃないのかと肉の中を切り開いたことがある。火は通っていたが、それは予熱で火が通っていただけじゃないか!


 一からか!一から教えなければないのか!他に料理ができるヤツが作ればマシな物ができるのか・・・いや、他の街で食べた料理も変わらなかった。コレが一般的な作り方なのか。


 俺は朝食を食べに来たジェームズの横に座り、壊滅的にどうしようもないスープを食べる。うん。いつもの味だ。はぁ。誰か料理スキルでも持っていないのだろうか。そうすれば、3日でなんとかなる?いや、そんなものを持っていたら、料理がうまいと名が上がっていてもおかしくないんじゃないのか?


「なぁ。ジェームズ。料理のスキルを持っているヤツって誰かいないか?」


 一応、駄目元で聞いてみる。


「いるぞ。」


 いるだと!


「誰だ!」


「キアナだ。」


 ・・・キアナ。あの食い意地の張ったキアナ。いやきっと名前が同じの別人だ!


「俺にお菓子を要求してくるキアナとは別人のキアナだよな。」


「美味しいものに目が無いキアナであっている。だが、キアナは仕事をしてもらわなければならないから、食堂にはつけられんぞ。」


 ああ、料理のスキルを持っていようが、何だっけ?青鳥人の能力の方が優先だと言っているんだよな。


「それで、うまい飯が食べれるとしたら?」


「・・・・。」


 ジェームズが考え込んでしまった。青鳥人の能力と美味しい食事と天秤に掛けているようだ。


「いや、別にずっとじゃなくていい。他の人がある程度料理ができるまででいいんだ。」


「ああ、わかった。キアナ!こちらに来なさい。」


 丁度、朝食を食べに来たキアナが食堂に入ってきた。


「おはようございます、大旦那様。どうされましたか?」


 ・・・お前は誰だ?ジェームズに呼ばれ、テーブルの横に立ったキアナが神妙な顔つきでいる。


「ああ、確かキアナは料理のスキルを持っていたな。」


「はい。そのスキルを用いる為に、食品部門に配属されております。それが、どうされましたか?」


 ん?料理のスキルがあるから食品部門に?どういうことだ?食材に対して、そのスキルがあることで何かあるのか?


「エンが料理のスキルを持つ人がいるか聞いてきてな、人が育つまでここ食堂で働いて欲しい。」


「エンが?」


 キアナがそう言って隣にいる俺をみた。その瞬間、キアナは俺の隣に座ってきて


「エン。キアナさんの能力が欲しいとキアナさんが欲しいと」


 いや、そこまでは言っていない。


「人が育つまでだ。」


「ふふふ。よろしいでしょう。エンがキアナさんの手料理が食べたいのですね。」


 何かが違う。


「キアナ。わかっているか?食堂の料理の改善のために、スキルを持った人材がいればいいと思っただけだ。」


「わかっているわよ。二人で食堂の改善をするのよね。初めての共同作業ってやつね!」


 その言い方は何かおかしい。それに二人ではない。


「美味しい物を作ってエンに食べてもらうのも良いかもしれない。ふふふ。」


 本当に大丈夫なのだろうか?



 朝食後、ジェームズが料理ができる人達を食堂に集めてくれた。

 今まで一人で食堂で頑張ってくれていたガジェフ。昨日手伝ってくれたミリア。食品部門にいた女性二人と衣類部門にいた男性一人と女性一人、そして料理スキルを持ったキアナが食堂に集まった。


「エーレと言います。料理は母親のお手伝いでしたぐらいです。」


 白いうさぎ獣人の18歳ぐらいの女性だ。


「ツァレです。普通の食事を作れるぐらいならできます。」


 二人の子供がいるリス獣人の女性だ。


「マギクスだ。冒険者をしていたので、簡単な食事はできる。」


 白猫獣人の男性だが、どう見てもジェームズの血族だ。そもそも、冒険者って料理きるのか。

 ジェームズをチラ見する。


「孫だ。」


「アルティーナの兄弟か?」


「違う!」


 マギクスが全否定してきた。いや、同じ衣類部門だろ?どうやら、従兄弟に当たるらしい。


 最後に人族の女性だ。人族によく見られる金髪青目だ。


「サッテリーナと申します。料理はできませんが、時間経過のスキルを持っております。」


 めっちゃ使えるスキルの持ち主だった。ジェームズ!グッジョブ!

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