第61話 今年も総統閣下一択よね
人が多く行き交う中、キアナとアルティーナに連れられ中央方面に向かっているが、人、人、人の壁に囲まれて一体どの辺りを通っているのかさっぱりわからない。
「なぁ。何処に向かっているんだ?」
「中央広場よ。屋台が沢山あるの。勿論、エンの奢りだからね。」
それは食い意地が張っているだけじゃないのか、キアナ。それに、俺が奢る意味がわからん。
「そこには各地区のミコシが集まるのよ。」
ああ、そこが喧嘩祭りの会場か。
「そこで、血と汗が滲む闘いがあるの。やっぱり、今年も総統閣下一択よね。」
アルティーナ、それもう祭りじゃないだろ。一択ということは賭けをしているのか?賭け事をしている時点で神事でもなんでもない・・・もしかして祭りの概念が違うのか?
ただ、騒ぎたいだけのイベントならあり得るが。
後ろから凄い悲鳴と共に男共の暑苦しい声が聞こえてくる。
「エン、来たよ。端に寄らないと突き飛ばされてしまうから気をつけてね。」
アルティーナに引っ張られて道の端に連れていかれる途中で、騒ぎの凶元を見てしまった。
天津!神輿を創ったのか!メッチャ見慣れた神輿じゃないか。黒色の屋根に金色の装飾が全体に施され、数十人で担ぐ程の大きさの神輿が凄い勢いで移動していく。いや、言い換えよう。闘牛に追いかけられるかのように人々が逃げまどい、神輿が逃げ惑う人々をかき分けながら猛然と突進して行く。
あれに神と言うものが乗っていたらクレームが来そうなほど、神事とは程遠い姿だった。
一応聞いてみる。
「アレは何だ?」
「ミコシよ。」
「あれは一人で持ち上げる物か?」
「そうよ。」
「エンって本当に何も知らないのね。」
アルティーナ、キアナ、おかしいのはお前たちだ!なぜ、神輿を一人で持ち上げているんだ!
総統閣下の話を聞いたときから違和感はあったのだ。『去年も総統閣下自らミコシを担いであれだけ暴れまわったというのに』と言うキアナの言葉、まるで総統閣下だけが神輿を担いで暴れ回ったかのような言い方だった。
この状況は担ぐと表現していいのか?一人の男が神輿の下に潜り込み神輿を持ち上げながら駆けている。周りにはむさ苦しい男共が何か声を掛けながら並走している。
俺には『ヘイヘイホー』と聞こえるのだが、気のせいだろう。しかし、これは神輿競争なのか?
目の前を通り過ぎて行く神輿を見ながら、俺は帰りたくなった。もう、祭りはいいんじゃないのか。
「ほら、エン。早く行かないと始まってしまうよ。」
キアナに引っ張られるが
「祭りの意味がわからない。帰っていいか?」
「「ダメ!」」
キアナとアルティーナに両腕を抱えられて歩かされる。ちょっと、足が浮いていないですかね?
いつもはだたの石畳の中央広場が様変わりしていた。簡易の階段状になった観客席が出来ていたのだ。それも金属製の足場にどう見てもプラスチック製のベンチがコロッセオのように円状に配置されてあった。
この首都ミレーテは5つの地区に別れているのだが、中央広場には東西南北の地区からの大通りが交差しており、今居る所がミレーテの中心点といっていいだろう。その大通りに合わせて神輿を通る隙間を作りそれ以外を観客席で覆っているのだ。
マジでやりすぎじゃないのか?天津。そして、中央には少し段になった舞台が・・・あれ?もしかして円状の噴水のなり損ないで座るのに丁度いいと思っていた段差が舞台になっている。
アルティーナに引っ張られて観客席のとある場所に連れて来られた。
「ここだけ空席が沢山あるのはなぜだ?」
この一体のみ空席が沢山ある。他の場所は殆ど埋まっているのにだ。
「この1区画はフィーディス商会の席だからね。他の人は入ってこれないの。」
そう、アルティーナが教えてくれた。フィーディス商会専用の席があるのか。確かに老舗の商会ならそういうのもあるのかもしれないが、簡易の観客席の4分の1は取りすぎじゃないのか。え?席を売っているから、余ることはないって?そ・・そうか、ジェームズらしいな。
俺はキアナとアルティーナに挟まれて座らされた。そんなにギュウギュウにくっつかなくても席は沢山あるのだから、もう少し離れろ。
「エン?」
上の観客席から呼ばれて振り向けば、シスターの姿をしたライラが上の方の観客席にいた。
ライラは一緒に居たシスターの格好をした女性に何かを話し、こちらの方にやってくる。
「ライラ、久し「ねぇ、この人達誰?」」
ライラが俺の言葉を遮って、聞いてきた。
「ああ、フィー「エンとキアナは恋人ですぅ。」おい。」
キアナが変な事を言い出した。
「いい加減な事を「エンはアルティーナの彼氏です。」違う。」
アルティーナお前もか!
「じゃ、ヴィーネは愛人でいいの。」
「ぐっ。」
ヴィーネが俺に突撃してきて、言ってきた。愛人ってなんだ!
「お前らいい加減にしろよ。」
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