第63話 空が青いのは同じか

 俺はとても後悔をしている。なぜ、この場所に俺はいるのだろう。

 目の前の光景はなんだ?なぜ、神輿が空を飛んでいるんだ?担ぎ棒を持って振り回せるものなのか?そして、破壊された部分が直ぐに再生されていっている・・・天津!何を創ったんだ!


 観客は興奮してバトルロイヤル方式で神輿を潰し合っている者達を応援しているが、これの何がいいのか俺には全く持ってわからない。これはどうやって勝負がつくんだ?


 アルティーナはアウルクルム総統閣下を応援している。総統閣下を初めてみたが、上半身裸の筋肉ムキムキの狐獣人で金髪の短髪にソルよりも大きな三角の耳を持ち、髪と同じ金色の尻尾を振り回して円状の舞台上を片手で神輿を持ち上げ走り回っている。


 担ぎ棒を持って振り回しているのは赤髪の大男で西地区の大通りでみた人物だ。ジェームズによると、西地区の警邏隊の隊長らしい。


 そう、俺はジェームズの横に移動している。ジェームズにマタタビと言う賄賂を渡し、ジェームズの隣の席を確保した。


 あ。なぜか緑の髪の人物が舞台を降りていった。


「なんだ?何が勝負になった?」


「ああ、武器である神輿がソルに奪われただろ?ミコシが舞台の外に落ちるか、奪われたら退場だ。」


 武器って言ったぞ!ジェームズ、神輿は武器ではない。しかし、ソルの手には確かに二基の神輿をお手玉のようにして操っている。


「なぁ。天津はこの祭りの事をなんて言っていたんだ?」


「『楽しいからいいよね。』」


 天津!全く持って意味がない祭りじゃないか!普通豊穣を願うとかあるだろ!


「最初は戦勝の祝をする為に騒ぐだけだった。」


 ん?戦勝?エルフの国から独立した戦いか。


「それが、数年後には力が有り余った者達が力比べを始め、乱闘騒ぎを起こすようにようになってな。死者が出るまでなったんだ。アマツ様がそれを悲しんでね。こういう形を取るようになったんだ。」


 ああ、平和になったら人々の不満のはけ口が無くなてしまったのか。それまで、エルフ族に向けられていた不満や憤りが行き場所を失って、乱闘騒ぎか。

 ローマ帝国のコロシアムのように国民の気持ちを別の場所に持っていくことは、国が大きくなり平和になれば必要なことか。

 そうか、娯楽がない。だから、『パレ・ガルニエ』か。この、おかしな祭りも必要なことなのか。天津も考えていたということか。


 そして、赤髪の人物が舞台を降り、総統閣下とソルの一騎打ちとなった。赤髪の人も神輿を手放さないように頑張っていたんだが、総統閣下とソルの両者からの攻撃には耐えられなかったようだ。息がピッタリだったな。


「くくく、やはりこの組合せになったな。」


「アウルはソルに負けっぱなしでしたからね。10年ぶりの参戦で、嬉しそうですね。」


「ああ、10年前までは英雄に挑める唯一の場だったからな。己の力を試せるから、参戦者は今の10倍はいたよな。」


 ジェームズとギルドマスターの話を聞く限り、まともそうな力試しの場に聞こえる。目の前の光景さえなければ・・・。


 ソルが三基の神輿を総統閣下の神輿に攻撃をしている。流石に、この攻撃に防戦で構えるしかないようだ。

 平和なのか?


 そして、勝者はソルだった。人々の歓声は空が割れんばかりに響き渡っている。流石に三基攻撃は無理だよな。筋肉の狐獣人が舞台上で四つん這いになって項垂れている。

 総統閣下、そんな姿を国民に見せていいのか?


 前の席でアルティーナが『北地区勝利に賭けていたのに!』と叫んでおり、キアナは『フフフ。南地区は大穴だった。』と言っているので、南地区に賭けていたらしいが、胴元は誰なんだ?


 は?ジェームズが胴元?今回は大番狂わせがあったから、ウハウハだと。そうですか。ソルの乱入がなければ、総統閣下の北地区勝利一択だったらしい。



 一大イベントが終わり、見物客が観客席から去っていく。まだ、今日は夜まで屋台や吟遊詩人や踊り子の催し物があるらしい。

 それぞれの目的の催し物の場所に向かって行く人達を見ながら思う。


 祭りなんていつぶりなんだろうと。大人になってからは仕事が忙しく、行こうと思うことはなかった。大学は休みの日はバイトをしていたし、高校はダチと遊んでいる方がよかった。

 小学生のときぐらいか、近くの神社の縁日に両親と一緒にいって、キャラクターのお面を買ってもらって、綿菓子を買ってもらって食べた記憶が蘇る。両親か。結局、俺の方が先に死んで、こんな世界で俺が生きている。


 魔法が存在し、人以外にも獣人がともに暮らし、黒色が嫌われている世界。平和な国で暮らしていた俺には余りにも異なる世界。


 ああ、空が青いのは同じか。



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補足

天津のコメントに対して

キアナ曰く、『祭りは神輿と神輿のぶつかり合い!相手の神輿を壊すほどいいのよ!』の本来天津が言った事は、『神輿は壊しても修復する機能を付けているから、ぶつけても大丈夫だけど、できたらあまり壊さないで欲しいな。』です。


神輿の運用について天津のコメント

『この神輿は皆で担ぐ物だから、一人で持ち上げようとはしないでね。物に当たったら大変だからね。』


そして、天津の言葉が歪み変換され、総合的に今の運用になり、諦めの境地で『楽しいからいいよね。』と言う結論にいたりました。


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来ていただきまして、ありがとうございます。


コメントでいただきましたとおり表現を訂正致しました。

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