第22話 前に言ったはずだよな

 ジェームズに産休の概念は話さなかった。話せば付随するもろもろの事まで整備をしなければならないからだ。俺は、商人の見習いであって、国を作りたいわけではない。


 そして、キアナが俺の前に立ち教鞭を取っている。このフィーディス商会の商品の流れについての説明だ。各地から仕入れた物は一旦本店に集められ、この国の50ある支店に送られるらしい。

 50店舗は流石に多すぎないか。と質問すれば、主要都市だけでなく、町単位に一軒店を構えているらしい。だから、50店舗という数になったというのだ。

 この、交通網が整備されていない地道で、それも騎獣が引く荷馬車でしか商品を運搬できないとすれば、かなりリスクが高いのではないのだろうか。

 先に道路の整備を・・・だから俺は国を作りたいわけではない。


 ダメだ。リスクがあるとそれを解決しようと考えてしまう。社畜の悪い癖だ。



 その後に文字の勉強を行うこと一ヶ月。俺は雑貨部門の下働きを与えられた。接客ではなく、商品を言われるがままに運ぶ仕事だ。

 雑貨ということは、羽ペンやインクなどの小さなものから、寝具や家具などの大きなものまでだ。


 この部門は人族ではなく獣人族が配属されることが多いらしい、なぜなら大型の家具を運ばなければならないからだ。そこに普通の人族の年齢より小さな俺が配属されたのだ。

 はっきり言おう、獣人の大人のお前らは持てるかもしれんが、人族の子供である俺が持てるはずねえだろ!心の中で叫んだ。


 口には間違っても出せない。なぜなら、ジェームズの指示でキアナ作黒豹耳カチューシャを着けなければならないからだ。

 キアナの発案がこんなところに影響が出てしまった。俺は黒豹獣人として、ここに見習いとして雇われていることになってしまったのだ。

 そして、間の悪いことに、ことあるごとに、ルギアがこのフィーディス商会に出入りすることが多くなったことが、周りの目に俺が黒豹獣人であることを確信させてしまったのだ。そのオッサンはただ食い意地が張っているだけだっと、声を大きくして言いたい。


 結果として俺は自分より大きな家具を身体強化を使いながら運ぶことになってしまったのだ。ジェームズ、違う部門ではダメだったのか?


「おい、見習い!いつまで、運ぶのに時間がかかっているんだ早くしろ。」


「はい。」


「おい、見習い。次、この本棚を運んでおけ。」


「はい・・・。」


 俺の背丈の倍はあるが?


「おい、見習い。・・・。」


 そんなふうに常に身体強化を使っていたために、とうとう体が悲鳴をあげてぶっ倒れてしまった。

 そういえば、ティオ爺が身体強化を使う前に体を鍛えろって言っていたな。


 意識が朦朧とするなか、目を開ければ・・・黒髪の金目・・・なんでルギアのオッサンがいるんだ?目線を反らせばそこにはもう一人いた。


「ティオ爺。」


「エン。随分無理をしたようだな。前に言ったはずだよな。身体強化を使うより、体を鍛えろと。」


「覚えている。」


「あと、周りの大人をもっと頼れ。」


「孤児院の中で俺をエンとして見てくれたのは、ライラとティオ爺だけだった。一体誰を頼るんだ?」


「そうか。そうだな。もう少し休め。」


 そう言って、ティオ爺は頭を撫でてくれた。意識が落ちていくなかふと思った。なんで、ルギアのオッサンがいるんだ?



ルギアside

「こういうところもアマツ様に似ているな。」


 部屋の入り口に立っていたジェームズが言う。


「分かっているなら、もう少し考えろ。」


「まさか、ぶっ倒れるまで、子供が仕事をするなんて思わないじゃないか。今までの見習いだったら、1日目で無理だと言い出すのに、エンは14日だ。倒れたエンを見て、そういえばアマツ様もぶっ倒れるまで仕事をしていたと、その時思い出したよ。周りが仕事の調整をしなければ、早朝から夜中まで仕事をしていたとね。」


 ジェームズの言葉に懐かしい日々を思い出す。あの頃が一番大変だったが一番楽しかった。


「そもそも、獣人が配属されるところに人族のエンを入れるのが問題だ。」


「仕事とは大変だということを分かってもらうにはいい部門だからな。まさか、身体強化を使っていたとは、ティオに言われるまで気がつかなかった。」


「黒髪であるエンは他人を頼ることが出来ないから余計だ。ルギアのおかげで、わしも黒髪に対する偏見は持っていなかったから、エンはそれを見抜いて普通に接してはくれた。エンは人が黒髪を見た瞬間、化け物を見るような目で見るあの視線が嫌だと言っていた。目は口よりも心を表すようだな。」


 俺にも覚えがあることだ。本当にあの目は嫌いだった。


「ときにルギア。」


「なんだ?ティオ。」


「エンはお前の子ではないのか?」


 お前もか。そんなに似ているのか?黒髪だってことぐらいだろ。そもそも彼女は人族ではなかった。

 ・・・一瞬彼女が言った言葉がよぎった。


『もうその時はビックリしたのよ。私、人族だと思っていたのに違うかったなんて。』


 ・・・まさかな。

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