第91話 やはり俺が悪いのか?

「確かにこの内海でもいいのですが、父から聞いたところによりますと、季節も天候も関係無く豊漁だったと聞きました。」


 まぁ、ダンジョンなら天候も季節も関係ないだろうな。


「そこはダンジョンだったのだろうが、エルフの王と暴君レイアルティス王の戦いの余波でダンジョンの入り口が海に沈んだようだ。だから、海の下にはまだダンジョンは存在している。」


 女性は目の輝かせながら前のめりで俺の話しを聞いているが、この湾内だけでも漁はできるんじゃないのか?


「そんなにダンジョンの漁がいいと聞いていたのか?」


 俺の言葉に女性はハッとして姿勢を正した。


「ええ、そこは魔物に襲われずに漁ができる場所があると聞きました。内海でもいいのですが、やはり年に数人の被害が出てしいますのです。」


 おぅ。海にも魔物がいるのか。そうだよな、その辺にスライムがいる世界だしな。それじゃ、武器を持って海に行かなければならないと言うことか。漁と魔物討伐を同時進行しなければならないのはキツイな。


 そうなってくると海の魚が首都で手に入らないのは、元々魚を取ことができる人が少ないのと、取ってもその人達で消費してしまうのか。


「そうか、まぁ。さっきダンジョンマスターと話をすることができたんだが、この集落の近くにダンジョンの入り口を作ると言っている。「本当ですか!」おぅ。」


 食いつきがすごいな。やはり海の漁が危険だったのか。


「それから、今までに生贄にされた人はそのダンジョンの中で村を作って生きているらしい。」


「え?じゃ、夫は生きているのですか?戻って来ますか?生きてくれていたの。良かった・・・ごめんなさい。」


 女性は唖然とした表情になり、その後泣き出してしまった。その謝罪は自分の夫を犠牲にして自分たちはここで生きていることへの謝罪なのだろう。

 しかし、あのアホー鳥が選べば誰であろうが、生贄にされていたのか。この女性がこの集落の代表と言っていたが、本当は女性の夫が代表だったのじゃないのだろうか。


 で、あのアホー鳥は村が大きくなってきたので、まとめる人物が必要だと思って、この女性の夫を生贄に選んだってところだろうか。


「すみません。」


「いや、続きを話して構わないだろうか。」


「はい。」


「生贄になった人達は戻ってくることは可能だが、ダンジョンの方が住みやすいとなると戻って来るかは本人しだいだ。」


 ダンジョンの中に村ができているってことはそこに生活基盤が完成されているってことだ、魔物に襲われず安心して暮らせるっていうのなら、そこに暮らすことを選択する人がいてもおかしくない。


「それから、ダンジョンマスターが生贄を望んだ理由だが、今まで冒険者やあなた達がダンジョンを利用していたことでダンジョンを維持していたが、入り口が無くなってしまったことで、それが困難になってしまったようだ。

 それで、ダンジョンを維持するためにダンジョンの中に人を住まわせていたらしい。だから、ダンジョンの入り口が近くにできたら、集落をダンジョンの一部になることを了承して欲しい。

 ダンジョンになったからといってこの集落は何も変わらないから安心して過ごしてくれればいいと思う。」


「それは良い事ではないのでしょうか?他の者たちにも説明をしますが、生贄にしてしまった皆が生きており、安全に狩りができるところに行けるのであれば、里がダンジョンの一部になろうが問題ないことと思います。」


 問題ないのか?まぁ、ここの人達が受け入れてくれるって言うなら、それでいいか。



 翌朝、集落の人達に感謝されながら、エルトを立ったのだが、俺、何も商売してないじゃないか!



「なんだ?また問題を起こしたのか?」


 首都ミレーテに昼過ぎに戻ってきてジェームズに報告をしようと執務室に入った瞬間そんなことを言われてしまった。いや、俺は悪くないから。運が悪いだけだ。


「問題というか。ソルの剣が捻じり折れたから一旦戻って来た。」


 そう言うと、眉間を押さえながらジェームズはため息を吐いた。


「ソルの剣というのはドラゴンの剣のことじゃないよな。」


「そのドラゴンの牙で作った剣だ。」


「普通は折れないはずのドラゴンの剣でソルに何を切らせたんだ?」


「リヴァイアサンだ。鱗には刃が入ったそうなんだが、俺が強化を掛けたせいで、捻じり折れたそうだ。」


 ジェームズは額の上に手を当てて天井を見上げながら、小声で『普通はリヴァイアサンなんてSクラス級に遭遇なんてしないぞ。それに強化だけでそんなことになるのか?』なんて言っているのが聞こえてきた。何だ?やはり俺が悪いのか?


「それで、ジェームズ。」


「なんだ?」


「この国では魚って食べないのか?」

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