第13話 最初の1年無給だと?

 俺はジェームズと名乗ったおっさんの後に付いて行く。おっさんの後ろには白くて長い尻尾がゆらゆらと動いている。ご機嫌のようだ。


「ここが俺の店だ。まあ入ってくれ。」


 店の中は食べ物や、雑貨など多種に渡り置いているようだ。奥の部屋に通され、座る様に言われた。どうやら応接室のようだ。なんだか、俺には価値がわからない絵や壺が飾ってある。


「改めて、俺はフィーディス商会の会長のジェームズだ。よろしく。」


「エンだ。行商人希望だ。」


「希望なのか?」


「人は見た目というもので決めつけるらしいからな。」


 俺はそう言って、フードとキャスケットを取り、黒髪を晒す。ジェームズの息を飲む音が聞こえ、今回も交渉には至らないかと思ったが。


「それは難儀するな。今、何歳だ。」


「12歳だ。」


「8歳ぐらいに見えるが?まともに食事が取れなかったのか?」


「ここ3ヶ月程は食べれるようになった。これでも少しは大きくなったんだ。」


「そうだな。ここのフィーディス商会で見習い修行をしないか?」


「は?なんで?」


「行商人希望なんだろ?」


「いや。俺をここで見習いをさせる理由がない。行商人ってことは別にフィーディス商会で働き続けるわけでもない。」


「ああ、メリットはあるぞ。例えばこれだ。」


 そう言ってジェームズが取り出したのは、町から町へ送ってくれた人にお礼に渡したリンゴだ。


「え。なんでジェームズが持ってるんだ。」


「ミレーテのギルドマスターに泣きつかれてな。絶対に怒らせてはいけない子を怒らせてしまったと。あの商品は普通には手に入らないのに失敗した。何とかしてくれってな。」


 ギルドマスターに泣きつかれるって、このオッサンどんだけ偉いんだ?


「それから、あっちこっちで情報を集めたら、子供が一人で街道を歩いていると。慌てて、荷馬車を送り込んだら、お礼にこんなみずみずしい果実を渡されたと言うじゃないか。ある者が言っていたのだが、カバンから出したように見えたが、果実が冷えていたのに違和感を感じたらしい。アイテムボックス持ちではないかと言ったのだよ。」


 え?そんな事でカバンから出したわけではないとバレるのか!


「アイテムボックス持ちかも知れない。このようなここでは採れない果実をお礼にただで渡す。そして、白い貴重な砂糖を商品として売りだそうとしている子供、見習いとして商人のノウハウを教え込めば後々いい取引先になるとは思わんか。」


 ああ、商人としての基礎を教えてやるから、優先でフィーディス商会に卸せと言っているのか。それなら、この取引も悪くはない。


「具体的な提案を聞かせて貰いたい。言っておくが商品の出所は絶対に教えない。」


「まあ。商人としては大切な仕入れルートだからな。それはかまわん。具体的には、1年はミレーテの本店で下働きをしながら商品の流れを覚えてもらおうか。残り16歳までの3年間はこの国の50ある支店に荷を送る荷馬車に同行するっていうのはどうだ?」


 俺に聞くのか?


「見習いの生活保証と休暇申請、賃金の発生の有無を知りたい。」


「ほう。住居は従業員専用の建物があるからそこの一室を提供しよう。


 休暇は6日出勤して1日休暇だ。希望日があるなら1ヶ月前には言うこと。荷馬車を運搬する者は20日運行して5日連続で休みだ。

 賃金に関しては最初の1年は無しだ。しかし、それなりの成果を上げたものには 、どの様な立場の者でも褒賞金を支払う。2年目からは1ヶ月15万Gガート支払おう。」


 最初の1年無給だと。それは厳しい。


「流石に無給は厳しいのだが?従業員専用の建物では食事の提供はあるのか?衣服や雑多の購入も考えなければならないのに、暮らして行ける気がしない。」


「くくく。普通の子供はそこまで考えずに見習いにしてやると言えば、喜んで契約書にサインするぞ。」


「普通の子供は危険な行商人になろうとしないだろ?で、どうなんだ?」


「君は面白いな。くくく。食事の提供だったか。従業員専用の建物の食堂で有料で提供している。「おい!」最初の1年は無料だ。2年目からは有料になる。雑多購入費の支払いはない。「無理だろ。」だから、お金の貸出をしている。「借金じゃねえか。」」


「えげつねー。1年目から借金を負わして、2年目の給料から天引き。手元に残るのが雀の涙。そして、また借金をして、借金地獄におちいるのか?」


「おお、上手いこと言うね。まさにその通りだ。しかし、お金の遣り繰りが身に染みると思わんかね。」


「その地獄から解放されるのか?」


「従業員の勉強の為だからな。利子は付けていない。早い者で5年程で終わっているようだ。」


「この話は無かったことで。」


 俺は席を立った。


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