第27話 アマツ様とはなんだ?
今のはなんだ?空耳か・・・ああ、空耳に違いない。面白そうだからって、意味が分からないよな。
━空耳じゃないよ。ほら、君たちって色々面白いことしてくれるじゃないか。誰も何も言わないのに、この世界の常識を変えようとしてくる。滑稽だよね。そうして、前の子も頭の硬い者たちに殺されちゃった。君も気を付けるといいよ。━
前の子?天津か。天津が殺された?誰に!
・・・答えは返ってこない。神か何か分からない者からしたら、俺は俺たちは滑稽なのか。ははは。確かにそうかも知れない。常識が違う世界に記憶を持ったまま生まれてしまえば、どうしても、前の記憶の常識に当てはめようとしてしまう。記憶を持つが上の弊害だ。
俺は長椅子から立ち上がる。神か何か分からない者から滑稽という評価をもらい、俺は教会に来たときより落ち込みが酷くなってしまった。外に出るためもと来た道を戻って行く。
「エン?エン、教会に何か用だったの。」
振り向けば、シスターの姿をしたライラがいた。
「いや。ただ、ふらふらしているだけだ。ライラはそんな格好してどうしたんだ?」
「私は孤児院を出て光魔術を極めることにしたの。エンは商人頑張ってる?」
「ライラは凄いな。俺はフィーディス商会で見習い中だ。」
「エンの方が凄いじゃない。あの老舗のフィーディス商会で働いているなんて。」
「何もすごくはない。見習い期間が終わったら、ふらふらと行商人する予定だからな。」
「ふふふ。エンが頑張っていると私も頑張らなくっちゃって思うの。だから・・・」
ん?どうした?
「だから、私が光魔術を使えるようになったら、また、ご褒美をくれるかな?」
「なんだ、そんなことか。」
「む。そんなことかって言わなくても」
俺は飴玉が入った小瓶をライラに渡す。
「ライラが新たな道に進んだお祝いだ。ライラならやりとげるさ。」
「ほんと、エンはズルいなぁ。私もう行かないと、ありがとう。エン。」
ライラはうつ向いたまま奥へ走って行った。何がズルいんだ?よく分からんな。
ライラは新たな道へ進んだようだ。光魔術かライラらしい道だな。俺らしい道とはなんだろうな。
ふらふらと歩き、南中央広場まで来てしまった。冒険者ギルドに通っていた癖だろうか。広場の中央には円形になった腰を掛けるのに良い高さの段状になった不思議な物がある。そこに座りボーと街を見渡す。俺が今まで異界だと分かっていながら、心の中ではそう思えなかった理由が今わかった。この街並みだ。旅行で行ったパリの街並みに似ている。石畳の道路、石またはレンガで出来た建物、それも決まりがあるかのように高さも並びも同じ。
これが天津がしたことか、異世界に居ることに違和感を感じず、この世界の人たちも何も思わずに暮らしている。多分俺が座っているところも噴水でも作りたかったのだろうな。しかし、こんな雪国だと凍ってできなかったのだろう。
それが、滑稽だと。それが殺されることになる事だと。天津は思わなかったはずだ。
俺は凄いと思う。これだけの物を作り上げた天津が。
「あれ?怪しい人がいると思ったら、エンじゃない。」
いきなり話かけて来たのはフィーディス商会にいるはずのキアナだった。
「休みの日だったよね。こんなところでどうしたの?」
「別にふらふらしているだけだ。キアナこそサボリか?」
「私はお得意様への配達が終わったところだし。サボリじゃないし。」
キアナが手を差し出して来た。
「なんだ、この手は?」
「私を疑った罰として飴を所望する。」
ただ単に食べたいだけだよな。
「俺の質問に答えたらやるよ。」
「仕方がないなぁ。言ってみなさい。」
すごい上から目線だな。いや。フィーディス商会での教育係には違いないが。
「アマツ様とはなんだ?」
「漠然とした質問ね。アマツ様は何事にも全力で取り組む人かな。目標に向かって真っ直ぐ、まだまだ、やりたいことがあったみたい。『エトワール凱旋門作りたいよね。』とか『パレ・ガルニエもいいよね。』とか『やっぱりエッフェル塔は欠かせない。』とか?」
凱旋門ってナポレオンにでもなる気だったのか?パレ・ガルニエ?がるにえ・・・オペラ座か演劇まで手を伸ばす気だったのか?エッフェル塔・・・この世界で作れるのか?産業革命が起きないと難しいのではないのか・・・ただ単に街並みを再現したかっただけなのか。わからん。
「でも、何か焦っていたのかな?時間に追われるように働いていたら、突然、亡くなられてしまった。病気だったと言う人と殺されたと言う人と意見が割れていたなぁ。結局、どうだったのかは分からないまま今に至るっと。これで良いかな?飴を所望する。」
キアナに小瓶の飴を渡すと小躍りしながら、フィーディス商会の方に帰って行った。
病気だったと言ったのは誰だったのだろうな。
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