第103話 神の言葉を聞いたことは?
ちょっと待て!色々おかしいぞ!
そもそも水は湧き出していない。俺が魔術で作り出したものだ。一年経てば水草ぐらい生えるかもしれない。魔術で生み出した水なら生えてくる水草は魔力を帯びるかもしれない。
それが神に愛されているだって?
神として一番に思い出されるのが、教会の声の人物だ。そして、アリスに嫌われた存在。
ないな。
「神から愛されてなんていない。」
俺の答えに少女は首を振り、更に俺に詰め寄ってきた。いや、近すぎる。
「神様から愛されれば世界が変わるの。おっ師匠様のおっ師匠様のように全てが変わるの!」
遠いな。師匠の師匠って誰だよ。
「俺は神なんて関係ないから、さっさとどっか行け。」
「私は神様から愛を受けなければならないの!神様からの狂愛を受ければ大魔女エリザベート様のように真の魔女になれるんだからね!」
おぅ。マジでヤバい系のヤツだった。魔女だって?それも神からの狂愛ってなんだ?
「教えてくれないっていうなら、君を見極めるため付いて行くから。」
「付いて来るな。迷惑だ。」
俺は少女をどうにかできないかゼルトを見ると、目を見開いて少女を見ていた。どうかしたのか?
「大魔女エリザベートだと?」
ゼルトの口から少女が言った名前がこぼれ出た。もしかして有名人か?
「ゼルト。その大魔女っていうのを知っているのか?」
「知っているのも何も・・・そうか、今の子供は知らないのか。」
今の子供・・・平和になってから生まれた子供という意味か。では、200年前の人物なのだろうか。
「200年前の戦いに関係がある人なのか?」
「いや、直接的には関係がないが、暴君レイアルティス王がその血筋で、大魔女の影響を強く受けたと言われていた。本人は数百年前に亡くなっている。」
へぇ。暴君レイアルティス王が大魔女の血を引いているのか、それなら、あの底が見えない池の穴も、湾と言ってもいいほどの穴を作った王だ。大魔女というのも凄かったのだろう。・・・ん?おかしい。
「大魔女が数百年前に死んだというなら、お前の師匠は人ではなかったのか?」
目の前の少女は普通の人族に見える。
「人だったけど?」
人だった。では人ではなく別の者になったということか。
「神様の愛は人という種族を超えることが出来るの。でもエリザベート様ほど神様から愛を受けることがなかったから、5百年しか生きられなかった。」
人族が5百年生きれば十分だと思うが、エリザベートという魔女はそれ以上生きたということなのだろう。
で、目の前の少女は魔女となるために、神のアイというものが必要だと言っているのか。
いや、俺は関係ないよな。しかし、このままだとマジで付いてきそうだ。確かこの街にも教会があったよな。
「お前は教会で祈りを捧げて神の言葉を聞いたことはあるか?」
そう聞くと凄く嫌そうな顔をされた。となると、この少女もあの神の声を聞いたことがあるのか。
「教会はエルフがウザいから嫌い。」
なんだ、あの声を聞いたことはないのか、確かにお布施という強奪に遭うのには間違いない。
「そうか、まずは教会の神の声を聞くことから始めるべきじゃないのだろうか。」
そう言うと、少女は目を見開いて『ああ、そうだね。』と言って空を飛んで行った。
よし、怪しい少女は何処かに行った。この隙きにソルを回収してミレーテに戻ろう。
「ゼルト、片付けて撤収だ。あの魔女希望少女はヤバい。絶対に頭がおかしいだろ。」
広げた商品をイベントリーに仕舞っていく。ゼルトも同意見なのか、撤収する準備をしていた。
そして、冒険者ギルドにたどり着き、受け付けでソルかノリスを出してもらうように頼むと受け付けの女性が怪訝そうな顔をして
「お約束はございますか?」
と聞いてきた。しかし、ここに来る予定ではなかったし、ソルがノリスに連れられて行く予定ではなかった。
「ないが、早急に呼び出してくれ。」
「お約束がないならできません。」
くっ。こういうときはソルが英雄だということが、俺なんかが簡単に会えないって事で思い知らされる。はぁ、まいったな。
そう思っていると、ゼルトが俺の頭に手を置いてフードを外した。
おい、何をするんだ!
「ル、ルギア様!」
受け付けの女性が大声でルギアの名を呼ぶから、俺に多くの視線が集まってしまった。
「こういうことだから、ソルを呼んで来てくれ。」
ゼルト!何がこういうことだ!俺のフードを勝手に取るな!
ゼルトの手を払い除け、フードを被り直す。
「こ、こちらへどうぞ!」
受け付けの女性はどうやらソルがいるところへ案内してくれるようだ。しかし、人の視線が痛い。
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