第60話 エンは記憶力無いのね
結局、この国に合ったやり方にすればいいと言って、執務室を後にした。
この国の中枢には関わるつもりはないから、その辺はお偉いさん達に任せよう。
そして、俺は自分の執務室に戻り、積み上げられた書類を捌いていく。取り扱っている商品が半端ないから、管理業務が大変だ・・・。今思ったが、これは見習いの仕事なのだろうか、違う気がする。仕入れ部門の部門長のナスレットさんに引渡そう。
そうと決まればと、立ち上がったところで
「エンさん。お茶休憩しましょう。」
フェーラプティスがドアの隙間から声を掛けてきた。こえーよ。ノックしてしゃきっと入って来てほしい。
「エン。ヴィーネのアイス、まだ貰ってないの。」
と言いながらヴィーネも入って来た。なぜ、アイスが貰える前提なのか知りたいのだが。この二人が結局
その後で部門長を探しに行ったら定刻で帰ったと言われてしまった。くっ。今日は大して仕事をしていないような気がする。
エルフ襲撃事件もといエルフ共が食料の献上を強要してきてから2ヶ月が経ち、朝には肌寒さを感じる季節になった。
その頃には商業ギルドに加盟している商会の全てで、荷袋と騎獣を用いた運搬方法に移行していた。思ったより他の商会の受け入れが早かったように思える。
こういう大きな変更が行われる場合、色々と問題定義され中々進まないものだと思っていたが、運用が決定されたのは1ヶ月も経たない内に決まっており、どちらかというと荷袋を作るのに時間がかかってしまっていた。
収納拡張機能を術式で組むのは魔導師しか出来ないようで、フェーラプティスの様に鞄作りと術式の施しを両立できる者がいなかったのだ。それで、フェーラプティスに一人でやらせようとしていたのを止め。鞄作成者と術式を施す人は別の人にしろと言えば、任せたと言われてしまった。
え?なんでそれを俺がしなければならないのか、わからないのだが?
そうして、秋の風を感じる季節にやっと解放されたのだ。確か俺は運搬業務の見習いのだったと思うのだが、なぜ、鞄作りの仕事をしているのかわからなかった。
「エン。今日はキアナさんとお祭りに行こう。」
一仕事終えた事でジェームズから5日間の休みを貰った俺が、中庭で座り込み、秋の空を見上げていたところキアナがそんな事を言ってきた。
「祭り?去年、祭りなんてあった記憶がないぞ。」
いや。待て。去年の今頃は確か倉庫管理業務に勤しんでいた頃だったんじゃないのか?
「エンは記憶力無いのね。祭りがなかったなんて、去年は総統閣下自らミコシを担いであれだけ暴れまわったというのに、それを覚えていないなんて」
キアナ。今、すーっごくおかしな言葉があったぞ。そもそも俺には遊んでいる暇なんてなかった。祭りに総統閣下が参加するのは、まあ個人の問題だからいいだろう。しかし、神輿を担いで暴れまわったというのはなんだ?まるで喧嘩祭り・・・はっ。まさか、また天津の鶴の一声か!
「天津先生の祭りに対しての要望はあったのか?」
「アマツ先生ってなに?まあいいけど、アマツ様曰く、『祭りはミコシとミコシのぶつかり合い!相手のミコシを壊すほどいいのよ!』だそうです。」
どこの喧嘩祭りだ!確かに神輿をぶつける祭りがあるとは聞いた事はあるが、どこまで壊す気だ。
「俺はそんな危険な祭りには行きたくない。」
俺は立ち上がり、キアナの前から去ろうとしたところで、後ろから捕獲された。
「じゃ、私と祭りに行く?」
アルティーナが俺を捕獲し、上から覗き込んできた。俺はキアナだから行かんと言っているわけではないぞ。
「あー!アルティーナ。私が先にエンを誘ったのに、後から来て誘うなんてダメです。」
「エン。キアナとじゃなく、私となら祭りに行くわよね。」
「エン。私と行くよね!アルティーナとなんて行かないから!」
二人して俺の頭の上で言あわないで欲しい。うるさすぎだ。俺は行かないと言っているのに。
「お前たち仕事はどうした。二人して休みってことはないだろ。」
「「休みです。」」
「そうか。じゃ、二人で行くといい。俺は行かなからな。」
アルティーナの手を解き、自由になった俺はさっさと自分の部屋に戻ろうと足と進めれば両腕をガシリと掴まれた。
「「エンが行かなければ意味がない。」です。」
と言われ、引きずられるようにして、中庭を後にしたのだった。
外に出れば凄い人が行き交っていた。
そう言えば孤児院のときは祭りの日だと言っても出歩かなかったな。その日は手伝いや仕事をしなくていい日で孤児院の中で過ごす様に言われていたな。確かにこんなに大勢の人たちが行き交っていたら、小さい子供など、歩くのも大変だ。
現に俺が大変だ。キアナとアルティーナに両手を握られているため、歩くのにどうしても道幅が必要となってくるし、二人の歩く速さが合っていない。そのため、人にぶつかられて舌打ちされるし、両腕を引っ張られて痛いし、散々だ。もう帰っていいかなぁ。俺、必要ないよなぁ。
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