第102話 俺には理解ができない
借金か。確かにあそこまで商品を強奪されたのなら、輸送中の商品を襲われたのなら、致命的な打撃を受けたのだろう。
しかし、逆恨みか。あの事件でそこまでの被害を受けなかったのはフィーディス商会だけだったと聞いた。やはり保険制度が必要か。もしくは商業ギルドを中心として・・・いやいや、これ以上は駄目だ。いらない仕事が増えてしまう。
今回のことはこういう嫌がらせも受けることがあるという、いい勉強になったと思うことにする。
いつも通り商品を並べるが、人の目に付きにくい場所なのでやはり客は来ない。普通なら呼び込みでもするところなのだろうが、在庫も殆どないので、そこまで商品を売ることにこだわりはない。
だから、門の陰から人の流れをボーッと眺めていた。気になる物があったのか足を止める人。決まった店があるのか露天に一直線に行き、そこで何かを購入する人。ひやかしで露天を見てる人。色々だ。
不意に俺の上に影が落ちた。顔を上げるとキラキラした赤い目を商品ではなく俺に向けている金髪をツインテールにしている少女が立っていた。
「君、面白いね。」
第一声がそんな言葉だった。面白い?何がだ?
「魔力が渦巻くように溢れているね。おっ師匠様より凄いよね。」
誰か知らない師匠という人物と比べられても困るんだが。
「一体何の用だ。商品を買わないようなら何処かに行け。」
別に今日は商売をするのを諦めているため、他の客の邪魔ってわけじゃないが、関わっていけない感じがする。
「買うよ。買う買う。うん。コレがいい。変わった魔力?気配?よくわからないけど、奇妙な布にするよ。」
そう言いながら、少女が手にしたのは俺が用意した花柄の布だった。それを奇妙な布と表現し、布地を広げて観察している。
異界の物は何か違うのか?そもそもあの世界に魔力は存在していないし、俺は何も感じない。それに、今まであちらの物を目の前に差し出しても、誰もそんな事を言う人はいなかった。
「はい、お金。」
お金と言われ渡され貨幣はこの国の物ではなかった。この国の貨幣に比べ形が少し歪だ。まぁ、ギラン共和国の貨幣は天津が創り出した貨幣製造機で作っているらしいので、それと比べるのは酷というものか。
「ゼルトこれは?」
ゼルトに渡された数枚の貨幣を見せる。貨幣を見せられたゼルトは『ああ』と言って
「グローリア国の貨幣だ。代金もピッタリだから問題ない。」
と教えてくれた。そうか、商人となれば他国の貨幣も覚えておかなければならないのか。戻ったらジェームズに聞いてみようと心に留めておく。
「ちゃんと商品は買ったから、お話していいよね?」
「そんな約束をした覚えはない。」
「君だよね?」
結局しゃべるのか!で、何の話だ。
「空を飛んで街に入っていったの。」
「だから何の話だ。」
「え?だって私の事見ていたよね。あの泉を作ったのは君だって、街の人が指をさして教えてくれたよ。」
見ていた?泉?・・・あ。こいつか!怪しい儀式をしていた本人は!
なんで、そんなヤツが俺の目の前にいるんだ。
ちょっと待て、確かここは東側の門だ。そして、俺が作った穴も東側だった。で、目の前に怪しい人物がいると・・・。って、誰だ俺が穴を空けた本人だと教えたヤツは!
「俺だったら何の用だ。」
俺がそう言うと、少女は商品を跨いで俺の手を掴んできた。いや、宙に浮いて俺の手を握っていた。
浮いている・・・そもそもだコイツは何処から来た?俺は門の陰から街の中を見ていた。だから、この場所に立つには必ず俺の前を通るはずだ。だか、俺の前を誰かが通った記憶はない。ということは上から来たのか?
「君は誰から愛されているの?」
「は?」
あいされている?何の質問だ?
「だって、そうだよね。じゃないとここまでにならないよね。私に教えて欲しいな。君が誰の愛を受けているのか。」
もっと意味がわからなくなってきた。ああ、他国の者だから言葉がおかしいと、俺には理解できない言葉を喋っていると。
「ゼルト。彼女は何処の言葉を喋っているんだ?俺には理解ができないんだが?」
「エン。何処の言葉もこの大陸の言葉は全部一緒だぞ。意味はわからんが、きちんと言葉は話しているぞ。」
何だと!一つの言語しかないのか!これで意味不明だというとコイツの頭がおかしいのか。
「悪いがお前の言っている事がわからない。」
そう答えると信じられないという表情をされた。いや、俺の方が信じられない。人の言語を話してくれ。
「そもそもだ。お前はあの穴・・泉で何をしていたんだ?」
「神様へのお祈り。」
あれがか?あの呪いでも込めてそうな怪しい踊りをしていて、神への祈りだって?
「あの泉は聖なる泉。」
はぁ?また怪しい事を言いだしたぞ。そして、なぜ恍惚とした表情をしているんだ。
「突如として水が湧き出し、そこから生えた水草はポーションの原料となるほどの良質な魔力を帯びている。そんな泉を作り出した君は神に愛された存在。で?どの神から君は愛されているの?」
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