第37話 日常を君と

冬休み中はそのあと一度だけスバルに会った。初詣くらい一緒に行っとくか?となんとなく誘ってみたものの、スバルが高熱を出して行けなかったりして(よほど楽しみにしていたらしく電話口で泣かれて困った)、このまま連休が明けて日常が始まるんだなーと思っていたところ、なんとなくスケジュールと体調の折り合いがついたために例の店にラーメンだけ食べに行った。休みが終わる直前のことで、風邪が治ったスバルは食欲が戻ったこともあり大変うれしそうにしていた。



あの日あいつは俺の部屋で、「一瞬でも好きかもと思ってくれただけで十分」と言って泣き、俺はめずらしく健気なその姿に胸を打たれたりもした。しかしそれはやはり大嘘だった。騙された俺の方が馬鹿というものだ。



ラーメン屋でスバルはベッドの下のAVを捨てろと高らかに宣言し、俺は断固拒否をした。



「まずお前、なぜそのことを」

「やっぱあるんだ!カマかけたのに!さいてー!!」

「あたりまえだろ健全な男子だぞこっちは!つうか、付き合ってもないし仮に付き合ってたとしてもそんなことまで指図されるいわれは」

「だって嫉妬しちゃうんだもん!僕で勃たないのは仕方ないけど、女に勃たせるのはフツーに腹立つ!」

「わーーーーーー!!!バカ、でけええええ声を出すな!!!」



スバルの声を上回る大声でかき消し、怯えながら周囲を見回した。こいつを好きになってしまったことについて、一生の不覚だとは思うが恥ずべきことだとまでは思っていない。が、人がいるところでそういう話題に触れるのはなるべく避けたかった。しかも前置きなしに下ネタをぶっ込んでくるとは。このやろう。



スバルはしょげた顔で言った。



「めちゃくちゃなこと言ってるって自分でもわかってるけど……。不安で、つい。ごめんね」



しおらしく振る舞っているときのスバルはちょっと可愛げがある。それは主に容姿のせいなのであるが、俺はやっぱり惚れてしまっているからなのか、そういう姿を見せられるとややほだされ気味になってしまう。だから思った。別にいいか、あんなもん捨てても、と。



「わーったよ捨てるよ」

「え?!」



自分で言っておいてまさかその要望が応えられるとは思っていなかったらしいスバルは、目を見開いて驚いている。



「捨てるか友達にあげるかするわ。ただ念のため言っておくが、それで俺の性欲がお前に傾くわけじゃないということをくれぐれも理解してくれよ」

「それはわかってるけど……いいの?」



いいんだ。最近はもうベッドの下のDVDではなくスマホがメインだったんだから。



「いいんだ」



後半は口に出さずしれっと言うと、スバルは照れた顔をした。無茶苦茶なわがままを聞いてもらえたことが純粋に嬉しいのかもしれない。そして無茶苦茶なわがままを聞いてしまう俺は、自分で思っている以上にこいつが好きになっているのかもしれない。いや、ふつうに、ヤバイ。

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