第66話 君とクリスマスを


クリスマスを共に過ごそうとは言ったものの、もう夜中なので行き先は限られていて、僕と優也は少し歩いたところにあるファミレスに行き着いていた。

こん時間に訪れる客はもしかして自分たちだけなのではないかと思っていたが、意外にもちらほらといるようだ。大学生や、社会人のカップルらしき人もいる。



「はー、外、寒かったなあ」



優也がコートを脱ぎながら両手を擦り合わせている。僕もマフラーを外しながら同意した。



「ほんと。近くにファミレスがあって良かったね」

「クリスマスに仕事からのファミレスはちょっと悲しい感じだけど、そもそもがスバル相手なんだし、なんかどうでもいい気持ちになってきたわ」

「酷いぞ!一人きりで過ごすよりは僕が来てよかっただろ!!」



口を尖らせて反論すると、そうだな、と言って笑われた。



クリスマスらしいものを食べようと言い張ったのに、優也は迷わず鍋焼きうどんを頼んだ。僕はグラタンを頼んで、和やかに食事を済ませたあとでチョコレートのケーキも注文する。



「ケーキはふたりで食べようね!」

「おう」

「……やけに素直だな。優也が僕の言うことに同意すると、警戒するくせがついちゃったよ」

「なんだよそれ。俺だってケーキ一緒に食べるくらいの思いやりはあるぞ。お前、寒い中ずっと待っててくれたんだろ?」

「……!」



そのとおりだ。そのとおりだけど、まさかそんなことを言ってくれるなんて思わなかった。

優也は頬杖をつき、唇の端を持ち上げて、からかうような顔で僕を見ている。



「口元緩みすぎなんだけど。そんなに嬉しいか?俺の思いやり」



嬉しいに決まってるじゃないか!!!!

言い返そうと思った時、アルバイトの女の子がケーキを運んできてくれたので、僕はその言葉を飲み込んだ。



「ねえ、優也はさ、去年のクリスマスはなにしてたの?」

「仕事」

「じゃあその前の年は?」

「仕事だよ」

「その前は?」

「仕事。そんで、彼女に振られたな」



ケーキの上に乗っているチョコレートに手を伸ばしかけて、思わず引っ込めた。


……三年前には彼女がいたんだ。


それはなにも不自然なことではないのに、心がちくりと痛む。過去に嫉妬するなんて、愚かなことだとわかっているのに。



「……どんな子だったの?」

「それが、よく思い出せないんだよなあ。二年くらい付き合ってたはずなんだけど」



思いを巡らすようにして言った優也は平然としていて、特に懐かしむ様子もなかった。それを見て僕はなぜかホッとし、次に気になった質問をぶつける。



「どうして振られたの?」

「うーん、俺が悪かったんだろうな。あんまり構わなかったから。クリスマスの日も約束してて、部屋で待っててくれたんだけど、残業で1時間待たせたらカンカンに怒っちゃってさ。それで、振られた」

「……しかたない、女心は繊細なんだよ」

「そういうもんか?」

「たぶんね」



僕は今日、会えるかどうかわからない状態で、優也のことを2時間以上待っていた。たとえ約束していても、僕はきっと同じように、会える瞬間をわくわくしてただじっと待つだろう。


勝ち負けではないし張り合うつもりでもないが、その事実は僕の誇りになった。同時に、三年前の彼女に感謝したい気持ちにもなる。その子がいなくなった未来で、僕と優也は出会ったのだから。


ケーキの上のチョコレートに、今度こそ手を伸ばす。

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