第65話 君とクリスマスを
11月後半から12月前半で、僕は死ぬほど売り上げを上げた。どのくらいかというと、デビルジャム始まって以来の最高額を叩き出したほどだ。それにはれっきとした理由がある。
「クリスマスに休みを下さい!!」
そんな非常識なホストがいるのか?と、誰もが思うだろう。いる。それは何を隠そうこの僕だ。しかし、僕はどんな不可能も可能にすることができる。
デビルジャムの代表は、No. 1の僕に辞められたら困るので、ある程度はわがままを聞いてくれるのだ。さすがに二つ返事とはいかなかったものの、そのときも、
「最高売り上げを出したらいいぞ」
と、あっさりと許可してくれた。だから僕は鬼の働きでその条件を達成し、実力で休みを勝ち取ったのだ!愛の力、恐るべし!
……まあ、クリスマスに優也と約束なんか、当然してなかったんだけど。
◆
しかし、優也がクリスマスに確実に予定がないことを僕は知っていた。これはとある信頼できる筋からの情報だ。(愛衣ちゃん)
優也は毎年12月はとても忙しくて、忘年会すらままならないほどとにかく仕事に追われる毎日を過ごしているらしい。仮に僕に内緒でいい感じの女の子がいたとしても、そんな目の回るような忙しさの中でクリスマスにデートできるほど、優也は器用ではないと断言できる。
というわけで確信があった僕は、クリスマスの夜、21時には優也の会社の近くにあるカフェで待機していた。道を挟んで向こうがビルの出入り口になっているので、優也が出てきたらすぐに見つけられる。
コーヒーをおかわりしつつ本を読んだり動画を見たりして、23時を過ぎたところで動きがあった。ビルから誰か出てくるのが見えたのだ。
優也か?!と思ったがよくよく見ると、それは茶髪の男性で、まったくの別人だった。落胆し、頬杖をつく。
本当に遅くまで仕事してるんだなー、と思ってビルの上部に目を向けると、ひとつだけ明かりがついていたオフィスからちょうど電気が消えるのが見えた。今度こそ優也に違いない!!
僕は急いで会計を済ませると、寒さに身を縮こまらせつつ外に出た。急いで携帯を取り出して発信する。優也は意外にもすぐに出た。いかにも残業を終えたあとの、疲れた声をしている。
『もしもし』
「やっほー。メリークリスマース!」
僕はつとめて明るく言った。
◆
他愛もない世間話をだらだらとしながら、僕の心は浮き立っている。ようやくビルの入り口に優也の姿が見えたが、向こうはこちらにはまったく気が付いていないようだ。
『ほんとに外、寒いな。家に着く頃には日付変わるギリギリかなー。結局仕事して終わっちまったよ。他にやることもないしいいんだけどさ』
僕が待っていたと知ったら、優也はどう思うだろう。ストーカーだと思われて、嫌われるかもしれない。その不安はないではなかったが、なぜか僕にはそうはならない自信のようなものがあった。理由はわからない。
「えー、そんなの寂しい。ケーキくらいは食べようよ」
僕のその返しに、優也が訝しんだ声を出す。
『……なに?』
気づくの遅いよ。と思いながら、携帯を持っていない方の手で、存在をアピールするかのように大きく手を振った。ようやく僕の姿を見とめた、優也の動きが止まる。
「は、おまえ、ここでなにやってんの」
スマホを耳から離したまま、肉声で発せられた言葉を真似て、僕も同じようにした。
「クリスマス、一緒には過ごせなかったけど、やっぱりちょっとでも会いたいと思って!」
自信があったのに、それでも声は震えた。だから優也が、ともすれば喜んでいるような表情を浮かべて見せたとき、僕は嬉しさに脱力して、その場に膝をつきそうになってしまった。
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