第67話 君のデートの日に
デビルジャムは今日も、いつもと変わりない盛況だ。前半は入店したばかりの新人ホストのバースデーイベントだったので、店全体で盛り上げて少し疲れてしまった。後半は通常営業だったが、ありがたいことに指名が途切れることがなく、ひと休みする暇がまったくなった。嬉しい悲鳴である。
自分のお客さんを見送ったあと、ようやくひと息つける~!と思いながら休憩をしに裏にまわったら、そこには同じく休憩している夕陽くんがいた。
「お疲れ~、夕陽くん、最近調子いいんじゃないのぉ」
「あ、お疲れ様です。スバルさんを見習って頑張ってるんですよ~」
「かわいいこと言ってくれるじゃないか」
笑いながら隣に座る。夕陽くんは僕が来るまで携帯をいじっていたようで、内容まではわからないものの、画面にメッセージアプリが映っているのが見えた。
「休憩中も営業してるの?ホストの鑑だな」
「いや、これは営業っていうか…いや、営業ですけど…」
目が泳ぐ様を見て、僕は察した。皆まで言うな、と思いながら静かに告げる。
「わかった。愛衣ちゃんだな」
「……そう、です」
「今日来てくれるって?」
「わかんないんですよね。そのへんで飲んでるみたいではあるんですけど」
「ではある、ってなんだよ~。そこを会いに来たくさせるのが僕たちの仕事だろ。呼びなよ」
「呼びますよ……でも、なんか、優也さんと一緒みたいだから」
「そんなのいつもじゃーん」
「そうですけど、あのふたり、本当になにもないんでしょうか?」
「え?」
「ないって言ってるけど、やっぱり仲良いし。もしかしたらふたりの間にはなにか」
「なにかあったら困るんだよ!!!」
……しまった。
思わず口から出てしまった。本音が。
「……こほん」
とりあえず咳払いをして取り繕う。
「……困るだろ?夕陽くんが。だいいちさ、優也との仲をいぶかる前に、愛衣ちゃんには彼氏がいるんじゃなかったの」
「まあ。でも、たとえ選んではもらえなかったとしても、もはや敵じゃないからいいんです。僕、少なくともその彼氏よりはいい男なんで」
人当たりのいい夕陽くんが真顔で言い切るものだからつい笑ってしまった。断じて馬鹿にしているのではない。僕はそういう自信満々な人間は嫌いじゃない。むしろ清々しくて好ましい。
「でも優也さんには負けそうだから。なんか、かっこよくないですか?何気ないふうなのに。大人だし、魅力的ですよね」
めちゃめちゃわかります!!!という心の声を押し殺し、まあそこそこかな?とさらっと返しておいた。ポーカーフェイスの口元が緩みそうで辛い。
そのとき携帯の通知が鳴って、夕陽くんが、あ。と声を上げる。
「いま、店に着くところだそうです。よかった、愛衣さん、来てくれたんだ……!」
「まじで?!優也も一緒?!やったー!」
思いっきり失言をしてしまい、慌てて夕陽くんのことを見たけれど、僕の失言に気づきもしないほど嬉しそうな顔をして返事を打っているので、幸せな気持ちになった。
それなのに。
◆
「いらっしゃいませ。ようこそデビルジャムへ」
なんと出迎えたとき、優也の隣には女がいたのだ。僕の幸せな気持ちは音を立てて崩れていった。どうやらそれは以前僕を指名してくれた、愛衣ちゃんと同じキャバクラの女の子だ。愛衣ちゃんが、優也のことを紹介すると息巻いていたのを瞬時に思い出す。ということはひょっとして、デートだったのか?
許すまじ!!
怒りの炎をたたえた僕の目を見たらしい、優也が一瞬だけ、観念したような顔をした。
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