第68話 君のデートの日に



席についてからも、優也は彼女や奥さんに浮気がバレたときの男のような、どことなく気まずい表情をしている。

……待てよ、ということは、優也にとって僕は彼女や奥さんに値する存在なのか?

なんて一瞬勘違いして調子に乗りかけたが、いやいやそんなわけないし、いま僕は怒ってるんだし!!と思い直し、本来の怒りを取り戻した。



「へ~ルミちゃん、今日は優也とデートだったんだ」



わざと声に出して言ってみると、右隣に座る優也の肩がビクッと震えた。僕の左隣ではルミちゃんが、可愛らしい微笑みを浮かべている。



「そうなんです!前に優也くんがお店に来てくれたとき、ぜんぜん話せなかったけど挨拶だけはしてて。それで哀子ちゃんに紹介してもらって…」

「うんうん」



席には僕と夕陽くんと、先週入ったばかりだという新人の由貴くんがついている。愛衣ちゃんの人選だ。僕はさも当然と言うように、優也とルミちゃんの間に割り込んでそのポジションを死守した。



由貴くんが自己紹介をしているときなんとなく隣を見たら、不意打ちで優也と目が合ってしまった。


(おい、女の子と会う時は連絡する約束になってたよな?マジでお前殺すぞ?)


と視線で訴えると、通じたのか、ぎこちなく目を逸らされる。



「でもさ、デート、いい感じだったんでしょ~?ルミちゃん、優也のこと優しい~って言ってたし」



突如会話に割り込んできた愛衣ちゃんの言葉に、僕はわざと眉をひそめた。



「……優也が優しい?」

「イヤ優しいだろ!どう見ても!」



間髪入れずに突っ込まれる。事情を知らない僕と優也以外のみんなは和やかに笑っているが、メンヘラを拗らせている僕は、はあ?優しい人は約束をちゃんと守るんじゃないんですか?という怒りでもってその突っ込みをシカトする。



「でもさぁ、ルミちゃん前に来てくれたとき、僕のことタイプって言ってくれたのに。ちょっとさみしいんだけど~」



少しだけ顔を近づけながら言ってみたら、ルミちゃんは照れた表情になった。でもやっぱり、初めて会ったときと同じでどこかに違和感がある。可愛いのだが、僕にドキドキしている様子があまり見られない。



「あの、違うんです。スバルさんは本当にタイプなんですよ、それは……」



ルミちゃんがあわあわとしながらそこまで言ったとき、トイレに立とうとしたらしい愛衣ちゃんが脚をもつれさせて派手に転んだ。デビルジャムに来たときはわりと元気なように見えたが、ハイペースで飲むので気付けばすっかりいつもの調子になっている。


今だよ!夕陽くん!と目で訴えようとしたら、そんなことをせずとも彼はすでに駆け寄っていた。さすがだ。



「大丈夫ですか?!愛衣さん!」



なんとか支えてトイレに連れてこうとしている。愛衣ちゃんはどんなに酔っても眠ったり吐いたりということはないのでそこは安心だ。これを機に夕陽くんがうまくやりますように、と、僕は祈った。



というわけで、席にはルミちゃん、僕、優也、由貴くんの四人が取り残された。ちらと優也の顔を見ると、その脳内が手にとるようにわかる。どうせこう思っているのだろう。



……由貴くんがいてくれて本当によかった……。



と。



僕はフン、と鼻を鳴らした。


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