第69話 病んでる僕と君
神は僕に味方したらしい。優也はあっさりと見放され、打ちひしがれている。頼みの綱だった由貴くんが席を立ってしまい、いまここには、僕、ルミちゃん、優也の死ぬほど気まずい空間が出来上がりつつあるのだ。
「哀子ちゃん、大丈夫かなあ……」
ルミちゃんが心から心配そうにつぶやくので、僕はにこやかに元気づけた。
「夕陽くんがついてるから大丈夫だよ、お喋りして待ってよう」
優也は秘密のデートがばれたのがよほど応えているらしく、未だに僕の目を見ようともしない。もしちゃんとした恋人がいたら浮気できないタイプなんだろうなあ、としみじみしてしまう。なんだか可愛くもある。
「そういえば私、気になってることがあったんです。スバルさんの好きなタイプについて」
「えっ?僕?」
ルミちゃんが突然そんなことを言い出すので、現実に引き戻された。僕の好きなタイプについて、だって?
「No. 1ホストの好きなタイプって、気になるじゃないですか~!」
「えー、そうかな。僕は……一見冷たそうに見えて実は優しい、みたいな、ギャップがある人が好きかな」
答えながら、うんうんそうだと実感する。ギャップのある人は最高だ。普段ツンツンしてるくせに、約束を破ったことをなんだかんだいっても気にしてしょげている人とか。
「……でも僕、本気になるといつも余裕なくなっちゃって。嫉妬とか、束縛とか、しちゃうんだよね」
気づいたらいつのまにか、独白のようになっていた。言葉に感情がこもり、語尾が震える。そうだ。僕は恋人でもないのに優也に強引な約束をさせ、こうやって罪悪感を植え付け、振り回している。最低な人間だ。本当は怒る権利なんかないのに。
「スバルさんが?意外……。いつも悠然とかまえてそうなイメージなのに」
「うん。相手の携帯にGPSこっそり入れといて、会社の場所を突き止めて、待ち伏せとかもしちゃうかもしれない……」
「わあ…愛が深いんですね…」
「重いんだよ僕…」
重くて、面倒くさくて、いいところなんて少しもない。いま嫌われてないのが奇跡なくらいだ。
優也、ごめんね。
そう言いたいけど言えないので、テーブルの下で優也の服の袖をそっと掴んでみた。ほとんど告白のようなことを口にしてしまった気もするが、もはやそんなことはどうでもいい。僕が申し訳なく思っていることに気がついてほしい。
優也の方は怖くて向けないので、ルミちゃんの顔を見ると、小首を傾げて尋ねられた。
「スバルさんって、ちょっとメンヘラ?」
「に、なっちゃうのかなあ……かっこ悪いよね、男なのに」
自覚はある。本当にかっこ悪い。直したいと思ってはいます。だから神様、どうか許してください……。
祈りを捧げかけた僕の耳に、ルミちゃんの予想外の言葉が飛び込んできた。
「ぜんぜん!かわいいです~~~~!」
?!
内心かなり驚いたが、表情には出さずに取り繕った。女の子の言う「かわいい」は褒め言葉だと決まっているからだ。
「ありがとうルミちゃん。僕、恋すると自信なんか全部なくなっちゃってさ。こんなことしたら嫌われるかもしれない、僕のこと好きじゃなくてもいいから嫌いにはならないで欲しい、って、本当は思ってるのにね。いつもうまくできないんだ。ごめんねって言いたいことも、たくさんたくさんあるのに、言えなくて」
そのとき、テーブルの下で掴んでいた優也の袖が手から離れるのを感じた。
ああ。
これは明確な拒否だ。
嫌がられたんだ。
当然じゃないか……
そう思った次の瞬間には、優也の体温の高い手が、行き場をなくした僕の右手を……握っている?!
なにが起きたか分からず死ぬほど驚き、つい三度見はしてしまった。それでも手は離れない。
「……マジでお前GPSの件だけは謝れよ!なんでクリスマスに会社に来られたのかと思ったらそーゆーことかよ!ふつーにストーカーだかんなバカ!」
なにかが爆発したらしく、怒声とともに優也が立ち上がる。引っ張られて、繋がれた僕の右手も持ち上がった。
その様子を目視したルミちゃんの頰が赤く染まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます