第70話 病んでる僕と君
完全に、手を、繋いでいる。
365度どの角度から見ても間違いない。確実に今、僕と優也は手を繋いでいる。
優也が我に帰ったタイミングで、勢いよく振り払われた。ぞんざいな扱いだったが、そんなこと気にしてはいられないくらい、僕の心臓はめちゃくちゃに早鐘を打っている。ついさっきまで優也の暖かい手が触れていた部分を、反対の手のひらでそっと押さえた。
そんな僕にはかまわず、優也は狼狽えてうめく。
「ちが、待って、これは」
「大丈夫です!」
ルミちゃんが突然きっぱりと言い切った。いったいなにが大丈夫なんだろう。突っ立ったまま身動きができなくなっている優也同様、僕もひたすら困惑している。たったいま、僕の身になにが起こったのだろう?
「本当に大丈夫なんです。あの、私……腐女子なんで!!」
ルミちゃんは語尾を強めて断言すると、可愛い顔でにこっとはにかんで見せた。
◇
その言葉で、ルミちゃんのこれまでの発言の不可解さが腑に落ちた。彼女が僕をタイプと言いながら、ドキドキしている素振りがなかったこと。そもそも彼女は異性に対してのときめきとはまた違う"そういう目"で、僕のことを見ていたのだろう。ある意味で勘が鋭いと言える。
「えっと、婦女子って……?」
優也だけが理解できず、ぽかんとした表情を浮かべている。取り残されている様子がかわいくて、僕は口の端が緩むのを必死にこらえた。ルミちゃんは優也にもわかるように丁寧に説明をする。
「婦人の婦じゃなくて、腐るの腐に、女子と書くんです。ボーイズラブ、男性同士の恋愛を好む女子のことを、腐女子って呼ぶの、聞いたことありませんか?」
「あ……そう言われれば、なんとなく」
「そうです。私、それなんです。だから偏見とかありません。むしろ二人はお似合いなので、いまとても、尊い気持ちになっています……!」
ルミちゃんがほっこりとした心底尊そうな笑みを浮かべているので、腐女子の気持ちがわからない僕までも、なんとなく幸せな気持ちになった。
「スバルさんが意外と重いのも推しポイントですし、一見冷たい優也さんがこっそり手を繋いでるのも……ツンデレ攻め……嗚呼、かなりよいです……!」
「あ、いや……申し訳ないんだけど、手を繋いでたのは本当に誤解だから。ルミちゃんを喜ばせられるようななんらかは、こいつと俺の間には一切ない。神に誓って」
ふわふわした幸せな気持ちは優也の否定によって断ち切られた。僕は俯いて舌打ちをする。いいじゃないか別に。そこまではっきりと否定しなくても。
「え……?でも」
手、繋いでましたよね?と続けたいのをこらえたような表情で、ルミちゃんは戸惑いを見せた。それはそうだ。男同士でこっそり手を繋いでおいて、それが誤解だなんていうことはどう言い訳をしたってあり得ない。なにがどう誤解なのか、なんなら僕も説明してほしい。
なんだったのだ?さっきのは。
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