第71話 君とその後
手を握った真意について、優也を問いただしてなんとしても確認したかったのに、気づけば席を離れていた皆がぞろぞろと戻ってきて、タイミングを逃してしまった。
そればかりか戻ってきた夕陽くんに、無常にも「ご指名ですよ」などと促され、僕の方が席を離れなくてはいけなくなった。あんまりだ。
「えー!僕まだ優也と一緒にいたいのに~」
駄々をこねるものの、他でもない優也に追い払うジェスチャーをされる。
「うるせえさっさと行ってこい」
厳しい男だ。
僕はうなだれつつもプロなので、なんとか気持ちを切り替えながら指名の席へ向かう。好きな相手がすぐそばにいるとはいえ、いまは仕事中だ。私情は挟まず、No. 1ホストとしての役目を完璧に果たさなくてはならない。
そう思って顔を上げたところで、僕は息を呑んだ。
◆
「こいつ、いまはこんな華やかに着飾ってるけどよ、学生んとき、先輩たちにいじめられてたんだぜ」
僕はいま、男女ふたりずつの4人グループの席についている。女の子は初めて見る子たちだったが、男ふたりは見知った人間だ。高校のひとつ上の先輩で、学生時代に何度か会話をしたことがあった。と言ってもデビルジャムで偶然再会するまで、顔も名前も忘れていたほど関係の薄い奴らだ。それなのに年上であること、昔の僕を知っているということを笠に着て、たまにふらっと訪れては僕を笑い物にする。
「女みてーな顔してるから、ふたつ上の先輩のお気に入りだったんだよ」
髪を立てた男の揶揄を、僕は顔面に笑顔を貼り付けたままやり過ごした。否定しないのはそれが事実だからだ。僕は学生時代にいじめられていたし、お気に入りという言い方はどうかと思うものの、月島先輩はたしかに僕に優しくしてくれた。
「なあ青木昴、おまえ、あの人に好き勝手されてたんだろ?男同士で気持ち悪いと思うよそーゆうの。そんなやつがいまじゃNo. 1ホストだなんて、笑っちゃうよな、まじで」
あからさまな嘲笑に、女の子ふたりはどう反応していいかわからないらしく、曖昧な顔で微笑んでいる。こいつらのせいでつまらない思いをさせてしまっていることに、なぜか僕の方が申し訳ない気持ちになった。喜んでいるのはもう一人の、ひょろりとした男だけだ。
なにがそんなに面白いんだろう。僕はこんな男たちに負けている部分なんかひとつもないので、腹も立たない。ただ、過去の話をされるといつも、もう二度と会うことはないだろう初恋の相手のことを思い出して、切ない気持ちになってしまう。
好き勝手されていたなんていうのはこいつらの作り話だが、僕はあの頃、月島先輩にならそうされてもよかった。むしろ願ってすらいた。だからやっぱり否定はできない。するつもりがなかったのは向こうなのだ。
忘れることは、多分一生できない。
卒業式の日、最後に微笑みかけた彼の顔を、今も時々思い出すことがある。
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