第61話 君と夢で



『スバル。悪いんだけど、もう連絡してこないでくれ。俺、彼女いるし、はっきり言うけど迷惑なんだよ』



優也に拒否された瞬間、僕の身体が爆発する仕組みになっていたらよかったのに。



たったいま言われた一言で心臓に大きな風穴があいたのを感じながら、しかし言葉も涙も出ずに、僕は呆然としたままただそう思っていた。



大好きな人に拒否されるくらいなら、死んだほうがはるかにマシだ。でもひとりで死ぬのはみじめで悲しいから、僕が目の前で爆発することで、優也まで巻き添えにしてふたり揃って消滅してしまいたかった。



「突然どうしたの?そんなこと言うなんて……」

『どうしたもこうしたもないだろ?ちょっと優しくしてたらつけ上がりやがって。俺にはそんな趣味ねえんだよ』

「わかってるよ。わかってるけど!僕は友達でいられたらそれでいいんだ。それ以上なんて別に……」

『友達?あんま笑わせんなよ。俺はお前みたいな友達はいらない』



ひどく冷酷な声だ。そして僕は、その言葉を否定することができない。友達でいられたらいいなんて、ただの建前だと自覚しているからだ。僕はいつだって優也が大好きで、もしも叶うなら手を繋いだり、キスをしたり、そういうことをしたいと思っている。下心を隠して健全ぶって近づいている、そんな自分はずるくて卑小で気持ち悪い。



『俺だって傷つけたくてこんなこと言ってるわけじゃないんだ。黙っていなくなってくれればそれでいい』

「わかったよ……でも僕、そんな急に……寂しいよ、いつのまにか優也がいるのが当たり前になってたから……」

『はあ?そんなの俺には関係ないだろ。一方的な好意を押し付けないでくれ。じゃあな』

「待って……!もう少しだけ話を……優也っ!」




優也っ。



現実でもその名前を呼んでいて、僕は最悪な眠りから覚めた。







「うわ!スバル、めちゃくちゃ目が腫れてるけど大丈夫か?」

「わかります?忍さん……」

「わかるどころじゃないよ、腫れすぎてもはや一重になってるじゃんか。とりあえず冷やして、メイクでなんとかするしかねーよなー」



夢のダメージを引きずって憔悴したまま出勤した僕を見て、先輩ホストの忍さんは心配してくれた。泣きながら目が覚めたことに加え、夢だとわかったあとも悲しくて悲しくてずっと泣いていた。妙にリアルな夢だったせいもあり、僕のメンタルはぼろぼろだ。



「最悪の夢を見たんです……今日」

「夢で泣くなよな~。どんなだったんだよ」

「世界一好みの相手に全力で拒否される夢」

「……そんなんで目腫れるまで泣くなんて、高校生かよお前は~」



苦笑する忍さんを横目に、俺はため息をついた。いかにバカバカしいかは自分が一番よくわかっている。でも、いつか正夢になってしまうような気がして、怖かったのだ。



「まあまあ、元気出せよ。世の中には逆夢っつーもんがあるらしいよ」

「なんですか?逆夢って」

「ものすごく悪い夢を見ると、逆に現実ではものすごくいいことが起きたり、とかな」

「へえ?!」



忍さんの言葉に、瀕死状態だったメンタルが少しだけ回復するのを感じた。二十歳を超えた大人なんだから、いつまでもメソメソしていられない。逆夢だと信じて切り替えて、今日も仕事を頑張らなければ。

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