第13話 約束を君と
ラーメンが運ばれてきて箸を割ったタイミングで、スバルはきっぱりと言った。
「ヤキモチ妬きました。ごめんなさい」
あまりにきっぱり言うもんだから、おう、なんて軽く応じて、あっさり許してしまった。おかしい。もう少しくらいはいじめてやるつもりだったのに。
絶対来られないだろうなと思っていたのに案外すぐにやって来たから、その時点で八割くらいは許してしまっていたのだ。おそらく。
スーツ姿で髪も盛っている完全武装状態のスバルが、デビルジャムから抜けて来たのは明白だった。
しばらく二人で向き合ってずるずるとラーメンを啜る。以前来たときと変わらないおいしさで、空腹が満たされていくにつれて俺はおだやかな気持ちになってきた。
どうでもいっか。
あっけらかんと、そう思った。
憑物が落ちたみたいにあっけらかんとした俺は、空になったスバルのグラスに、水なんかも注いでやったりする。
◆
「……いや、ヤキモチってなんだよ!気色わりい!」
「どうしたの?突然」
「突然じゃねえ!お前が変なこと言うからだよ」
ラーメン屋を出た瞬間、おいしい匂いや満腹感といった幸せな雰囲気でごまかされていた怒りがぶり返してきた。
なあなあになってしまうところだ。危ない。これがスバルの常套手段だというのに。
駅に向かいながら喚くと、スバルはさらりと切り出した。
「あのね、僕さあ、けっこう自分の顔、好きなんだけど」
「……まあ、それを聞いて納得するくらいには、整ってらっしゃると思いますけど?」
事実だがすんなり認めるのも悔しいので、嫌味をたっぷり込めて返したつもりが、スバルはいたって真面目な顔をしている。真面目に自分の顔がけっこう好きなのだな、と思った。
それはまあいいとして、この話題は一体なんなのだ。
「だからね、そのへんのキャバクラの女の子には負けないと思ってるわけ。」
「んん?」
キャバクラの女の子に張り合おうという考えがそもそもおかしいのではないか?
「優也はさ、僕と一緒にいて楽しくないの?」
話題がズレている気がしないでもないが、そう聞かれると答えに困ってしまう。心情的には、楽しくない、と即答して狼狽させてやりたいところなのだが、事実こうして何度もふたりで会っているのだから、少なからず楽しいという思いはあるのかもしれない。スバルと一緒にいるとくだらないことで爆笑とか、してるし。
「楽しくない……と言ったら嘘になるな」
「でしょう?僕は楽しいよ。すっごく、すっごく楽しい!」
ね!と力強く同意を求められるが、すっごくを重ねて使うほどではないので、そこは頑として頷かなかった。
「だからさ、キャバクラに行くより、僕と一緒に過ごした方がいいと思わないわけ?」
「……はい?」
「僕は思うよ。そのほうが有意義じゃないか。そう思ったから、腹が立って、あんな態度とっちゃったんだ。でもいま振り返ってみると、無茶苦茶だよな。結局ただのヤキモチなんだ。ごめん」
「はあ」
スバルの言葉は本当に無茶苦茶で、気の抜けた返事しかできなかった。
気がつけばもう駅のすぐそばまで来ている。
なんなんだ?このやりとりは。
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