第14話 約束を君と


「ところでさ、優也はどうして今日、僕を誘ってくれたの?」

「っ、お前が連絡のひとつもよこさないからだろ!」



ところでじゃねえ!こっちはさっきの話もまだ理解し切ってないっつーのに!



という苛立ちをそのままに言い返して、はたと気がついた。俺はスバルからの連絡を待っていたのだろうか?

同じタイミングで、スバルの唇の端が両方大きく持ち上がる。にんまり、という様子だ。



「……ふうん、そっかそっか。それでか。いやあ、嬉しいなあ、僕」

「いや、言い方を間違えた。お前は誤解している」

「なんでもいいよ。こうして誘ってくれたんだから、それで」

「話を最後まで聞け!」



そうだ。あの日も電話で、こいつは俺の話を最後まで聞かなかった。かぶせるように一方的に発言して電話を切って、それから一度も連絡をよこさなかった。



「お前あの日も俺の話が途中なのに切っただろ。腹立つんだよ、そーゆうの」

「怒らないでよ。あの日聞かなかった話はいまちゃんと聞くから。話してみて」

「だから!!……俺はあの日ちゃんと言ったんだ。お前に、俺は哀子としか喋ってないから、ほかの女の子のことはよく見てないって……」



言いながら凍りつく。これではまるで弁解じゃないか。あの日、俺は、なんでそんな話をスバルにしようとした?どの女の子と話したっていいはずだ、それはスバルに対する裏切りでもなんでもないし、当然の、俺の自由なのだから。


それなのに。

なぜ説明を?



「哀子って、愛衣ちゃん?」

「……そう。あいつ、本名が哀子なんだ。俺の幼なじみで」

「ふうん、そっか」



スバルはうなずいて、黙りこんでしまった。俺は動揺しっぱなしで、そんな様子にかまってやる余裕もない。



「優也の話、あの夜、ちゃんと聞いてればよかった。やっぱり俺が悪いよ。ごめん」

「いや、いいけど!とにかく、急に無視とかするなよ。理由もわからないで、びっくりするだろ」



自分でも自分の考えや感情が理解できなくて、しどろもどろになりながら言い返す。一方のスバルは落ち着き払っていて、それもなんだかムカついた。



「待って。僕、無視はしてないよ。ただ連絡しなかっただけじゃん、そもそも優也から連絡なんて来ないんだし」

「だから、そういうのをやめろって言ってんだろ!」

「そういうのってどういうの?優也の言ってることがよくわからない。僕はどうしたらいいの」

「だから!お前はいつも通りにしろって言ってんの!いつも通りくだらねー連絡とかよこせよ!俺はいつも通り無視するから!そんで、気が向いたときだけ返すから!」



声を荒げて言い切ったあと、いやいやいやいや、と心の声が間髪入れずに非難した。



いやいや俺はなにを言ってるんだ?も、そうだし、内容も内容で都合のいい女を弄ぶ男のようなクズ発言ではないか?も、そうだし、いやでもこいつは男だから別に弄んでいることにはならないよな。も、そうだし、ではその男相手に俺はなにを言ってるんだ?も、そうだし、すべての心の声は堂々巡りで、ああもう……



「……うん、わかった」



スバルが力なく呟いて、しかしとても幸福そうに、ほっこりと笑った。いやいやいやいや、と再び、心の声が否定する。なんでお前、そんなに幸せそーな顔してんだよ。そんな顔されたら、堂々巡りの心の声なんて、ひとつも口にできなくなっちゃうだろ。



そう思ったら力が抜けて、もうどうでもいいや、と匙を投げる気になった。お手上げだ、俺には。なるようになれ。



そんな俺の葛藤には気づいていないスバルは、元気を取り戻した様子でおねだりモードの声を出す。



「優也、僕からもひとつお願いがあるんだけどいい?」

「なんだよ」

「女の子のいるお店、なるべく行かないで欲しい。もし行くときは知らせて、俺に」

「はあ?なんの権限があってお前が」



言葉は最後まで続かなかった。はあ?と言った瞬間にスバルが立ち止まり、肩をいからせて、抗議するようにこちらを見ている。



……なんだっていうんだよ。

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