第2話 デビルジャムで君と

哀子がどうしても起きなくて、最終的にはお店に任せることになった。非常に心苦しかったが夕陽くん曰くよくあることらしい。



というわけで、帰りはひとりになってしまった俺のことをスバルがエレベーターで雑居ビルの一階まで送ってくれた。いいと言ったのに振り切れなかった。



「女の子と一緒なら入れるからさ、気が向いたらまた来てよね。僕の一番の男!」

「なんか、アカネさんに悪いな、俺みたいなのが一番を譲ってもらっちゃって」



ノっておこうと思い心にもないことを言うと、今度は興味なさそうに返される。



「いいんだよ、アカネは実のねーちゃんだから」

「あ、そうなの」



雑居ビルの最上階にデビルジャムはあった。狭いエレベーターに乗り込み、階数の表示が、6F、5F、と下がっていくのをぼーっと見る。酔っているし朝方だしで、頭がぼんやりしていた。



「僕、相川くんとはこれからもっと仲良くなる気がする。」

「なんだよそれ?」

「わかんない。勘かな。」



へらりと笑う。つくづく、すごく綺麗な男だ。俺の知っている男性とはまったく違う、もちろん女性とも違う、神々しいまったく別の生き物のようだ。頭がぼんやりしているせいもあるかもしれない。



エレベーターが一階についたので降りようとすると、ふとスバルがにこやかに立ちふさがった。軽いノリでおどけている。



「しとく?えれちゅー。」

「えれちゅーって何?」

「お見送りの時にエレベーターの中でちゅーを」

「するわけねーだろバカ」



馬鹿馬鹿しい。最後まで聞かずにスバルを押しのけ、エレベーターを降りた。またねー!連絡するねー!という明るい声が、背後から聞こえる。







家に帰ってシャワー浴び、寝て、起きてから、しみじみと思った。

不思議なやつだ。



連絡することは絶対ないが、ついアプリを開いてしまう。

すごく綺麗な男。

碧スバル。



「…あ。」



俺のアプリも、その名前が一番上に来ている。

そのすぐ下に青野哀子の文字があった。



ー僕、相川くんとはこれからもっと仲良くなる気がする。



あいつの勘は当たるのか?

俺は今のところ、そんな予感はまったくしていないが。

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