第2話 デビルジャムで君と
哀子がどうしても起きなくて、最終的にはお店に任せることになった。非常に心苦しかったが夕陽くん曰くよくあることらしい。
というわけで、帰りはひとりになってしまった俺のことをスバルがエレベーターで雑居ビルの一階まで送ってくれた。いいと言ったのに振り切れなかった。
「女の子と一緒なら入れるからさ、気が向いたらまた来てよね。僕の一番の男!」
「なんか、アカネさんに悪いな、俺みたいなのが一番を譲ってもらっちゃって」
ノっておこうと思い心にもないことを言うと、今度は興味なさそうに返される。
「いいんだよ、アカネは実のねーちゃんだから」
「あ、そうなの」
雑居ビルの最上階にデビルジャムはあった。狭いエレベーターに乗り込み、階数の表示が、6F、5F、と下がっていくのをぼーっと見る。酔っているし朝方だしで、頭がぼんやりしていた。
「僕、相川くんとはこれからもっと仲良くなる気がする。」
「なんだよそれ?」
「わかんない。勘かな。」
へらりと笑う。つくづく、すごく綺麗な男だ。俺の知っている男性とはまったく違う、もちろん女性とも違う、神々しいまったく別の生き物のようだ。頭がぼんやりしているせいもあるかもしれない。
エレベーターが一階についたので降りようとすると、ふとスバルがにこやかに立ちふさがった。軽いノリでおどけている。
「しとく?えれちゅー。」
「えれちゅーって何?」
「お見送りの時にエレベーターの中でちゅーを」
「するわけねーだろバカ」
馬鹿馬鹿しい。最後まで聞かずにスバルを押しのけ、エレベーターを降りた。またねー!連絡するねー!という明るい声が、背後から聞こえる。
◆
家に帰ってシャワー浴び、寝て、起きてから、しみじみと思った。
不思議なやつだ。
連絡することは絶対ないが、ついアプリを開いてしまう。
すごく綺麗な男。
碧スバル。
「…あ。」
俺のアプリも、その名前が一番上に来ている。
そのすぐ下に青野哀子の文字があった。
ー僕、相川くんとはこれからもっと仲良くなる気がする。
あいつの勘は当たるのか?
俺は今のところ、そんな予感はまったくしていないが。
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