第3話 オフの日に君と

俺がスバルなんてホストの存在をすっかり忘れ、一週間が経った頃。



日曜の夜、自分の家で借りてきた映画を見ながら酒を飲み、ベッドで心地よくうだうだしていたところに、アプリの通話がかかってきた。



~~♪



唐突に鳴る電話の音というのは休息の時を引き裂いて、気持ちをせき立ててくる。朝のアラームの音と同じ種類の不快感だ。



「ったく、もう23時だぞ。だれだよ」



イラつきながら画面を見ると『碧 スバル』と表示されている。無意識に怪訝な表情が浮かんでしまったので、己の心に正直に、潔く無視することに決めた。



まあ夜だし、仕事で酔って間違えてかけてきたのだろう。



~~♪


~~♪


~~♪



無視をしているのに三度続けて電話がかかってきたので、文句を言ってやらなければどうしても怒りがおさまらないと思い直し、勇んで電話に出た。



「おいおまえいま何時だと思ってんだよ」

「やっと出てくれた~!相川くん?久しぶり!」

「一週間しか経ってねーよ」

「今何してたの?僕とラーメン食べに行かない?」

「おまえ俺のハナシ聞いてる?」

「今ねー相川くんの最寄駅にいるからさ!南口で待ってるねー」プツッ



ツーツー



あのクソガキ、絶対ぶち殺してやる。







なんだかんだと奴の思惑通りに最寄り駅まで来てしまった。着いてから気がつく。俺はバカなのか?



夜中だしいいだろうと普段は絶対にしない歩きタバコをしつつ南口についてみると、壁にもたれてしゃがみこんでいるスバルがいた。満面の笑顔でこちらに手を振ってくる。



「相川くんそのセットアップかわいいね~!部屋着なの?似合う!」

「おめーは女か」

「女だと思うならもっと優しくしてくれてもいいんじゃない?」

「思ってねーからこの対応なんだろが」

「あはは、相川くんと話すと楽しいなー」



いかん。完全にこいつのペースに巻き込まれてしまっている。

無駄に美しいスバルの顔を横目で睨みつつ、携帯灰皿に吸い殻を落とした。



「てかスバル、今日、店は?」

「ん?休みだけど?」

「じゃあこれ、プライベート?」

「うん。プライベートデート」



子供みたいに無邪気にはしゃいでいるので、突っ込む気力もわかない。なんかもう色々と諦めることに決めた。まんまとここに来てしまった時点で俺の負けなのである。



「この近くに、僕の好きなラーメン屋があるんだよね。休みだし本当はひとりで食べに来ようかなって思ったんだけど、駅に着いたら相川くんがこの駅の近くだって言ってたの思い出して」

「そうだったっけ?酔っ払って話したことよく覚えてるなあ」

「僕は飲むのが仕事だから。それに、あの日のことは特別よく覚えてるよ」

「ふうん?」

「とりあえず行こ!」



スバルは話したいだけ話すと歩き出した。自由奔放なキャラクターなのに何故か憎めないような、なんとも言えない不思議な気持ちになってくる。俺の日曜日の幸せを奪った張本人だと言うのにだ。こんなはずではなかった。人たらしというかなんというか、まったくホストおそるべし、である。

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