第4話 オフの日に君と
スバルの言う通り、ラーメンは本当に美味しかった。店もこざっぱりとしていて雰囲気がよく、夜中に食べても胃もたれしない、程よいあっさり感。
普段はラーメンはこってり派の俺も、充分おいしくいただくことが出来た。
2名がけのテーブルに通されて、向かい合って麺をすすっていると、もう何度も共にメシを喰ってきた仲のような気さえしてくる。
「そういやおまえんちはどの辺りなの?」
「なに急に?また僕と遊んでくれんの~」
「そう簡単に次があると思うな」
「じゃあ言わないよっ」
スバルはふふふ、と、さも面白そうに笑うとれんげでスープをすする。
「たまには僕もさ、女の子と同伴とかじゃなくて、友達と気軽にご飯食べたりしたいわけよ」
「そんで誘うのが、一週間前に出会ったばかりの俺なわけ」
「うん、僕、相川くんすげータイプだからさっ」
「はあ?」
「意外だろ?こう見えても好きになったら一直線なタイプなのよ」
「なんなのそのキャラ」
「かわいい弟キャラじゃん?」
「だとしたら設定に無理があります」
「なかなかいないけどな、僕ほどかわいい弟は」
自信満々にそう断言するスバルの顔を、ラーメンの湯気越しに何気なく眺めた。
まつげが長いアーモンド型の大きな目と、すっと通った鼻筋。笑うと時折八重歯が見え、相手に人なつこい印象を与える。
ホストらしく長めで薄銀色に染めた髪の毛は店にいる時のようなヘアメイクは今日はしていなくて、自分で軽くセットしただけのようだ。無造作ヘアも、顔がいいからサマになっている。
比べるように、俺は25年間見てきた自分の顔を頭の中で思い浮かべた。
社会人になってからは黒を貫いている短めの髪。人からよく指摘される三白眼。高くもなく低くもない鼻。軽薄そうな唇。唯一身長だけはスバルより高いが、他で優っている部分は一つもないような気がする。
勝手にふてくされて不愉快な気分になったので、勢いよく麺を吸い込んだ。
神様って不公平だ。俺もスバルの見た目があったら、ホストにでもなって女をはべらかし荒稼ぎもしただろうさ。
◆
南口まで歩いてきたが、終電はとっくに出ていた。それはそうだ、待ち合わせた時点で23時をとっくに過ぎていたんだから。
「もう帰るの面倒だし相川くんち泊まっちゃおっかなー」
「明日仕事だっつうの。タクシーで帰れよ」
「え~冷たい~!」
文句を言いながらも大人しくタクシー乗り場まで来た。なんだろう、俺、こんな時間にこいつと二人で何やってんだろう。
ふいに謎の脱力感に見舞われたが、まあラーメンも美味しかったし、何気に楽しかった感じもしてきたし、これはこれで良しということにしよう、今日のところは。
タクシーに乗り込む間際、スバルがもの言いたげな顔でこちらを見てくる。なんだ?という表情で答えたら、ふいに顔が近づいてきて、楽しそうな声音でそっと耳打ちされた。
「僕の家、ふたつ隣の駅。今度遊びに来てね」
呆然としているとドアが閉まり、じゃあねー、と笑顔で手を振りながら、タクシーに乗ったスバルが遠ざかっていく。
行かねえよ!!!!!
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