第48話 君と2LDKで

二匹の子猫はひだまりに寝転び、ころころと転がっている。ゴロゴロ言う子猫を撫でたりつついたりしている相川くんからは終始ハートが飛んでいて、僕はあまりの尊さに、その様子を隠し撮りしたい気持ちに駆られた。



「ああああ~かわいい~~~」



相川くんも同じくらい可愛いよ!クソ!!

自覚なく魅力を振りまく25歳に心の中で毒づきながら、僕は平静を装って答える。



「いい子だろ?こいつら」

「ほんとに…噛んだり引っ掻いたりしないのかよ…」

「んー、これからは分かんないけど、今のところはまったく」

「あああああ~~~」



動物が好きなんだなあ。そう思うとこっちまで癒された。僕も猫は好きだ。



「この猫たちはさ、ねーちゃんから預かってるだけなんだ。いま出張で海外にいるんだけど、来週には帰ってきて、連れていかれちゃうんだよね」



言いながら考えていた。

1日の半分くらいは家を空けることになるし、泥酔して帰宅して餌をあげ忘れたりするのが怖いので、動物を飼おうと思ったことはこれまで一度もなかった。でも、いつかホストを辞めたら、大好きな猫と暮らすのもいいかもしれない。僕はどうせずっと独りだから。


センチメンタルな気分になりかけたが、相川くんの声で我に帰る。



「じゃあこんな可愛い子たちといずれ離れ離れか。お前も寂しくなるな」

「離れがたくて泣いちゃうかもね。本当はこのまま飼いたいくらいなんだけど」

「なんとか譲ってもらえないの?」

「ねーちゃんも出張で泣く泣く預けた感じだったし、無理だろうなあ。まあ、今を大切にするよ」

「そういや猫猫って、名前なんて言うんだよ」

「…聞かなかった。離れる時に悲しくなる予感がして」



この人のことが気になるのは見た目がタイプだからだと思っていた。でも、慰めるように頭にそっと手のひらを置かれた瞬間、違うのかも、と思った。

ぜんぜん違うのかも。接した時間は短くても、人柄に惹かれているのかも。



心臓の鼓動だけが速くなっていく中で、バレるのが怖くて顔を上げられずにいたら、空気を変えるように相川くんが、おどけた様子で言った。



「あー、悪い、腹減った」

「そうだよね。僕も。すぐ準備するから座ってて~」



笑顔を作って顔を上げ、表情をよく見られないうちにキッチンへと向かった。危ない、いろいろと。



「…お前が作るの?手伝う?」

「作るってほどじゃないよ。お客さんにお土産でもらったレトルトのカレーあるから、食べよ。有名店のやつらしいよ。ごはんもう炊いてあるし」



デパ地下で売っているような高級そうなパッケージのカレーを持ち上げて見せたとき、ああ僕がもし女の子だったら、と思った。



身も心も男子だけど、もし女の子だったなら、相川くんと付き合える未来があったかもしれないのに。

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