第47話 君と2LDKで
僕は普段は午後になってから起きるのだが、今日は朝方に寝たのに午前中にはもう起き出していた。何を隠そう、相川くんがうちに来る日だからだ。
あの約束は本当に交わされたものだったのだろうか?夢ではないのか?と、何度もアプリのメッセージ履歴を確認してみた。いくら見てもそこには【行く】の二文字があり、その後、時間や待ち合わせ場所の指定までお互いにしてあって、ああこれは現実なのだなあと実感する。嬉しくてどうにかなりそうだ。
もちろん向こうにとって、知り合いの年下ホストの家に遊びに行くことに特別な意味がないことくらいはわかる。でも僕の側にはあるのだから、ウキウキしても仕方がないというものだ。
窓を開け、部屋中隅々まで掃除し出した僕を、二匹の子猫がきょとんとした顔で見つめている。外から入ってくる風が気持ちいいらしく、僕の邪魔をせずにおとなしく日向ぼっこしている様子が可愛くてたまらない。
「はやく13時にならないかなあ」
掃除機をかけながら独り言を呟いたら、頬が緩んだ。相川くんは待ち合わせ場所に、どんな顔をして現れるだろう。
◆
20分前には待ち合わせ場所に着いていようと思ったのに、服を決めるのに手間取ってしまい、家を出るのが遅くなった。とはいえ遅刻はしなくて済みそうだ。
自宅デートとなるとファッションが難しい。気合いを入れすぎると堅苦しいし、抜きすぎても良くないしで、適度なバランスが大切なのだ。迷った末、僕は今日髪をかるくセットして前髪だけ上げて、部屋着っぽいゆるい服装を選択していた。かなり厳選したが、適当にそのへんにあるものを着たけど元がいいからキマってしまった、というさりげなさが演出されている。
駅の目の前にあるファッション系のビル前まで歩いて向かった。そろそろ着くという頃、腕時計を確認すると12時58分だった。人混みに紛れて相川くんを探す。もしかしたらまだ着いていないかな?と思ったとき、その姿を見つけて胸が高鳴った。僕を待ってくれている。
「おっはよ!」
「おー」
ジーンズにパーカーというラフな格好だが、スタイルが良いのでシンプルにお洒落に見える。ふたりで連れ立って歩いていると数人が振り返った。彼の姿に惚れ惚れとしているうち、僕たちは恋人なのではないかという錯覚に陥り、つい彼女みたいな言葉を口に出してしまった。
「相川くん、お昼まだでしょー?僕の家で適当に食べよー」
「ああ、まだ。ありがとう」
しまった、馴れ馴れしすぎたか?と口にした瞬間後悔したのに、相川くんが素直にお礼を言うので驚いた。こういうところがズルイ。
家に遊びに来てくれるくらいだから、僕の願い通り、いつか僕たちは親友になれるかもしれない。でもそうなったとき、相川くんに彼女が出来たら、僕は親友として祝福できるのだろうか。
現状が幸せすぎるから、隣を歩く彼の横顔を見上げて切ない気持ちになってしまう。
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