第46話 君と猫を抱いて
僕は相川くんと違ってマメな方なので、本来は既読無視なんてしない。拗ねて慣れないことをしてみたはいいものの、このまま彼から一度も連絡が来なくて、会えないまま縁が立ち消えてしまうんじゃないだろうか?という不安がだんだん大きくなっていった。
相川くんから連絡は来ない。あと一日来なかったらこっちからなにか送ってみようかな。と思い始めた矢先のことだった。
「夏菜子ちゃん、今日もありがとうね」
「こちらこそ。本当はもっと一緒にいたかったけど、明日は同伴で早く起きないといけないからまた別の日にゆっくりくるね」
「気持ちだけでも嬉しいよ。今度僕ともまた同伴してよね」
「アフターじゃ駄目?いつでもホテル付き合うんだけどなあ」
「僕は今日しか空いてないなあ」
「もー!今日はダメって言ってるじゃん」
夏菜子ちゃんがふざけて言い、無邪気に笑った。ホテル云々というのはもちろん冗談である。僕も笑い、彼女を見送るために奥のVIP席からホールへとふたりで出て行く。
そのとき、暗い店内でキラキラ光る照明に照らされて、視界の端に相川くんの姿が見えたような気がした。
そういえばさっき、夕陽くんが指名されていた。愛衣ちゃんが来てるのか?……ということは、やっぱり相川くんもいる?
心臓が急にドキドキし始める。
あーこれ、ダメかもしんない。ちょっと気になるなあと思っていたけど、一緒にラーメンを食べた日から、以前にも増して彼のことを考えてしまう。
「スバルくん、どうかした?」
夏菜子ちゃんが巻き髪を揺らして振り返る。茫然としてなにかを考え込みはじめた僕を、不思議そうに見ている。
「あ、ごめん。夏菜子ちゃんのスタイルに見惚れてた」
「でしょ~?わかるわかる、その気持ち」
「どうやってキープしてるの?」
「あのね、ジム通ったり……」
話しながらエレベーターに向かう。夏菜子ちゃんとは、別れぎわ僕が彼女の頭を撫でて、明日もがんばってねと伝えるのがお決まりの儀式となっていた。
店に来てくれた感謝を込めて今日もその儀式を済ませ、タクシーに乗った彼女の姿が見えなくなるまで見送ると、慌てて店内へと戻る。
夕陽くんがついている席には、やっぱり愛衣ちゃんがいた。そしてその隣には……
「相川くん?」
立ち尽くしたまま声をかけると、彼はハッと顔を上げた。その不機嫌そうな顔を見たとき、僕は嬉しくて嬉しくてたまらなくなってしまった。ただ無理やり連れてこられただけかもしれないけど、ほんの1ミリくらいは、僕の既読無視を気にしてくれたりなんかしていたのかもしれない。その可能性があるというだけで、あとはもうなにもいらないという気持ちになれた。
◆
人間は強欲だ。あとはもうなにもいらないなんて、頭で思ったって心はその通りなわけがない。
スバル【猫を見に来ない?】
勇気を出して送ってみた。デビルジャムで会った相川くんは、やっぱり僕の様子を伺いに来た素振りもあったような気がしたので、少しだけ調子に乗ったのだ。
優也【行く】
すぐに返事が来て、僕は部屋のベッドから転げ落ちそうになった。
二度目のデートが大決定してしまった。
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